ソニーに米主要株主が“経営再建”“解体”を突きつけ!外圧で揺さぶられる日本企業たち
(「ソニー HP」より)
米国のアクティビスト(物言う株主)の日本企業への攻撃が始まった。有力ヘッジファンド、サード・ポイント(ニューヨーク市)のダニエル・ローブCEO(最高経営責任者)は5月中旬に来日して、ソニーの平井一夫社長兼CEOと会談した。ソニーの発行済み株式の6%を保有していることを明らかにしたうえで、経営再建策を突きつけた。
ローブ氏は言う。「映画、音楽などエンターテインメント部門を分社化して、15~20%の株式を米国で上場させる。上場で得た資金で不振のエレキ事業を再生させる」。
さらにサード・ポイントは最大2000億円を出資する用意があるとともに、ソニーから要請があれば社外取締役を送り込むとした。ソニーから要請があればというところが憎い。
ローブCEOの行動は素早かった。経済産業省を訪れ、サード・ポイントのソニーへの提案に理解を求めたという。テレビ事業が9年連続赤字のソニーの経営陣は、同氏に外堀を埋められた格好だ。
平井社長は5月22日、東京都内で開いた経営方針説明会でサード・ポイントの提案に対する考えを初めて語った。「株主からの重要提案なので取締役会で十分に議論したい」。外部の財務アドバイザー(FA)を起用して、提案内容がどのくらい業績を向上させるかを試算。取締役会に最終判断を委ねる。
財務アドバイザーとしては、モルガンスタンレーとシティグループが選ばれた。
ハワード・ストリンガー取締役議長は6月20日に開かれるソニーの株主総会で退任し、中外製薬会長兼CEOの永山治氏が後任の取締役会議長になる人事が内定している。新任の取締役として、日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸会長兼社長兼CEOら3人が就任する。
13人の取締役候補のうち、執行役を兼務するのは平井社長と加藤優CFO(最高財務責任者)の2人だけ。ソニー米国法人の元幹部のティム・シャーフ氏を除く10人は、いずれも社外取締役だ。
つまり、こういうことなのだ。ダニエル・ローブCEOは、この10人の社外取締役に「映画・音楽事業の分割」を提案した。ソニーの執行部とは違う公正な判断を求めているのだ。
ソニーの社外取締役は、ハワード・ストリンガーの働きに見合わない高額な役員報酬の決定などで“隠れ蓑”に使われてきた。ストリンガー氏個人のために重要な役割を果たした以外は、これまでほとんど機能していない。今回、この10人の社外取締役がどのような判断を下すかが注目点だ。
●次に狙われるのはどこだ?
ソニーは前哨戦に過ぎない。「日本の大企業に注目するのはサード・ポイントだけてはない。政治的な発言力や情報発信力を持つ大物のアクティビストが狙っている」(市場関係者)。アクティビストは2008年のリーマン・ショック後の金融危機で資金難に陥り活動が停滞していた。しかし、金融緩和による日米の株高で資金力が増し、息を吹き返した。標的にするのは巨額の手元資金を抱えるキャッシュ・リッチ企業だ。デフレ不況下、設備投資はやらず、従業員に対して賃上げもせず、現預金を貯め込んできた企業群だ。金融機関を除く民間企業の現預金残高は、2010年末の194兆円から12年度末には209兆円に膨らんだ。こうした企業がアクティビストの餌食になる。業績が回復する過程で「配当を増やせ、自社株を買え」といった株主還元策を迫られるケースが増えそうだ。
キャッシュ・リッチの筆頭はトヨタ自動車(豊田章男社長)。13年3月期来の現預金は1兆8000億円、利益剰余金は12兆6000億円にのぼる。キヤノン(御手洗冨士夫会長兼社長)は株主総会で「貯め込んだ金をどう使うのか」との質問が出ている。最盛期には“松下銀行”と呼ばれたパナソニック(津賀一宏社長)やファナック(稲葉善治社長)などが狙われるとの見方もある。
「株主提案について相談したい」。大手コンサルタント会社や法律事務所にこんな相談が相次いでいるという。3月決算会社の株主総会の今年のピークは6月27日。水面下で争いを続けている第二のソニーの提案が、一気に表面化するかもしれない。
トヨタ、ソニーを除くキャッシュ・リッチ企業を思いつくままに挙げておく。日本電信電話(NTT)、本田技研工業、デンソー、NTTドコモ、日産自動車、スズキ、日立製作所、楽天、大塚ホールディングス。
M&Aの専門家は、京セラ、マツダ、武田薬品工業、日本たばこ産業(JT)、ブリヂストン、信越化学の名前を挙げた。メガファーマーがめじろ押しの薬品会社は狙われやすいという見方が多く、アステラス製薬、エーザイ、塩野義製薬も候補に入るようだ。
(文=編集部)