なぜ3Dプリンター市場は急拡大したのか?「ホワイトオーシャン」という新たな概念
3Dプリンター市場は、まさにこのホワイトオーシャンの市場だったといえるのです。具体的には、市場トレンドの変化、現状方法の限界、参入余地の拡大という3つの要素を分析することで、それが見えてきます。
社会環境が変わると市場トレンド(世の中の当たり前)が変化してきます。デジタル家電などの開発競争が激化しスピード勝負になるなか、デザインも重要になってきました。これまでは、試作品などの模型をつくる際、発泡スチロールを削ったり、人工木材を加工したり、樹脂を外注で機械加工するなどの方法を採用していました。これらは前述した現状方法にあたります。
ところが、市場トレンドの変化に伴い、現状方法ではダメになってきたのです(現状方法の限界)。前者2つはデザイン面でダメになり、後者はスピードが遅いという弱点を持っていたのです。
その一方、デジタル家電市場はどんどん拡大し、開発スピードも上がっていく。にもかかわらず現状方法ではスピード、デザイン面においてニーズを満たさない。ここに大きなギャップ(参入余地)ができ、新たなホワイトオーシャンの市場が誕生したのです。
そこへ、もともとインクジェットプリンターの技術を持っていた企業などが、平面の紙などに文字や絵を描写するのではなく、3Dの模型を造形するという製品を開発、投入し、それが先ほどの参入余地にうまく適合し、ギャップの拡大とともに市場が拡大していったというとらえ方ができるのです。
このように、市場トレンドの変化により、現状方法に限界が発生し、参入余地が拡大(新たなカテゴリーの市場が発生する)というホワイトオーシャンのとらえ方は、冒頭の競争相手のまったくいないブルーオーシャンのとらえ方とは異なり、より現実的であり、具体的といえるのではないでしょうか。
新たに生まれる市場というのは、まったく新しい技術の登場による技術的なイノベーションによって生まれる市場、あるいは今回のホワイトオーシャンのように、社会の変化によって生まれてくる市場が中心となります。世の中では、農業、次世代自動車、医療、介護業界などが成長産業と叫ばれていますが、結局、参入余地がなければビジネスは成立しないでしょう。また、そこへさまざまな企業が集まること自体、レッドオーシャン化を招いてしまうという、ある意味矛盾を抱えた滑稽な状態も多く見受けられます。
成長産業という見方だけではなく、参入余地がどこにあるのか。世の中のブームに惑わされないことが真の成長市場を見つけ出す入り口となるのではないでしょうか。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)