中国のスマホメーカー・シャオミの躍進が止まらない。2021年4~6月期の世界スマートフォン市場では、米アップルを抜いて世界シェア2位に躍り出たのである。
日本国内においても、今年7月から新発売となった新機種「Xiaomi Mi 11 Lite 5G」(4万3800円)がかなりの高コスパだとネットで話題を呼び、売り切れとなっている店舗も少なくない。
そこで今回は、新機種「Xiaomi Mi 11 Lite 5G」の魅力とともに、躍進を続けるシャオミの強みについてITジャーナリスト・石川温氏に話を聞いた。
シャオミ新モデルのコスパの良さは、他社メーカーにとって脅威
さっそく話題の新機種「Xiaomi Mi 11 Lite 5G」の特徴を解説していただこう。
「まず、スマホの処理性能に直結するプロセッサー・Snapdragon 780Gが、同価格帯のスマホには見られないスペックの高さです。ハイエンドモデルには及ばないものの、4万3800円という価格を考えると驚きの高コスパといえます。他社メーカーで展開している同スペックのスマホを比較すると、1~2万円程度の金額の差があるでしょう。
さらに、6400万画素のメインカメラ含む3つのカメラが搭載されていて、6.55 インチのディスプレイながら軽量。これだけオールラウンドに優れた高コスパな5G対応モデルは他社メーカーにとって間違いなく脅威でしょうし、シャオミの強みが発揮されている象徴的なモデルですね」(石川氏)
シャオミがこのような高性能・高コスパなモデル機種を展開できるのはなぜだろうか。
「広告費を抑え、そのぶんの予算を開発費に回すことで、安くて高性能なスマホの開発を可能にしているんです。例えば韓国のスマホメーカー・サムスンはオリンピックのスポンサーを継続的に続けたりテレビCMをバンバン流したりして、大々的に広告費を使いますが、シャオミはそうした予算の使い方をしません。
市場に出始めた頃のシャオミは、ネット販売に特化することで中国国内のシェアを徐々に伸ばしていきました。安くて良いスマホを開発し、ネットの口コミを利用することで若者に普及させていったんです。その口コミ、評判はやがて世界的に広がり、東南アジアをはじめ西欧、アフリカ、中南米と世界的に普及率を伸ばしていきました。安いスマートフォンの需要が高い地域では特に成長率を伸ばしている傾向にあります」(石川氏)
反対に、アメリカなど富裕層が多い国ではアップルのシェア率が高い。しかし、世界的に見るとiPhoneのようなハイエンドモデルの求心力は下がりつつあるようだ。
「ハイエンドモデルのスマホを購入できる層は限られていて、世界的にはスマホに求めるスペックはそこそこでいいというユーザーが多い。ですから、低価格で高コスパなモデルが重視されていて、その需要にシャオミはハマったのでしょう。
一方で、販売台数ではシャオミがアップルをくだしたものの、利益では依然アップルに差を付けられています。1台あたりの利益率が高くないシャオミは、ともかくできるだけ多くの台数を売ることで利益を積み重ねているんです」(石川氏)
また、前年4~6月期は世界シェア2位だった中国メーカー・ファーウェイがランク外になったことで市場に与えた影響は大きいと石川氏は続ける。
「これまでのスマホ市場ではファーウェイの存在感が圧倒的に大きかったんですが、アメリカの経済制裁によってファーウェイは世界でスマホが売れなくなってしまったんです。携帯電話会社のネットワーク基地局も担うほど大きな企業だったファーウェイが制裁対象になったのに対して、シャオミは企業規模や世界的な影響度はそれほど大きくなく、アメリカから目をつけられることはありませんでした。ファーウェイがシェアを落としていくなか、その間にすかさず入り込めたことはシャオミが世界2位まで飛躍できた要因として大きいでしょう。
現状を鑑みると、ファーウェイの復活はしばらく難しいかもしれません。そのためシャオミとしては盤石な地位を構築したとはまだ言い切れないまでも、しばらくは現在のポジションのままサムスン、シャオミ、アップル、中国メーカーのOPPO(オッポ)やVivo(ヴィーヴォ)といった競合メーカーと上位争いを繰り広げていくのではないでしょうか」(石川氏)
世界スマホシェア上位を占める中国メーカー勢が台頭した理由
シェア上位を見ると、スマホ世界市場はそうした中国メーカーが席巻している。その背景についても教えてもらった。
「中国は人口が多いので、中国メーカーはまず中国国内向けに作ればそれなりに台数が売れるんです。台数が売れれば部材を安く調達できますから、安いスマホを世界中に展開できるわけです。
昔は中国メーカーの商品は品質が悪いイメージがあったかもしれませんが、近年ではノウハウの蓄積によって品質も向上していて、スマホに関しては世界各国で不安視されるような問題は起きていません。そもそもアップル含む各国のメーカーも実際に生産をしているのは中国の工場というケースがほとんどですから、中国は世界のスマホ工場といえるでしょう。
そして、中国メーカー勢はこれからまだまだ伸びていく可能性があります。例えば韓国で4番目に大きい財閥企業・LGグループはスマホ事業から撤退しています。韓国の大手メーカーでも中国メーカーに立ちゆかなくなっているということです。
また、スマホだけではなく家電産業にも舵を切りつつあるシャオミは、IoT関連やスマートカーの開発に力を入れて自動車産業にも進出しようとしています。そうした観点からも世界的な影響力はさらに増してくるでしょう」(石川氏)
そんなシャオミだが、世界諸国と比べて日本国内での普及率はまだ高いとはいえない。シャオミが国内でシェアをどう伸ばしていくかは要注目だと石川氏は説明する。
「シャオミは2019年12月に日本初上陸を果たし、KDDIやソフトバンクでも扱うようになりました。ですが日本ではまだ知名度もブランド力もイマイチで、現在は“スマホに詳しい人が買うブランド”といった程度の立ち位置です。
例えばスマホ世界シェア4位の中国メーカー・OPPOは、タレントの指原莉乃をCMに起用したことで日本での認知度を上げました。通常は、認知度を上げるためにそうした広告戦略を取るべきなんですが、先ほどお伝えした通りシャオミはそうした広告は打たないわけです。あくまで中国国内や世界各国で成功したネットやSNSの口コミでユーザーを増やしていく戦略を、日本でも採用していくようです。
ただ、日本は世界的に見てもiPhoneユーザーが特別多い国なので、そのポジションをネットの口コミレベルでひっくり返すのは難しいかもしれません。また、中国メーカーの参入に消極的な傾向のあるNTTドコモがシャオミを取り扱っていないという影響度は大きいので、その点もカギになるでしょう」(石川氏)
いくら質が良くリーズナブルなスマホを展開して世界的に人気でも、日本国内で普及するためにはまだまだ壁があるということのようだ。
(文=二階堂銀河/A4studio)