コンテンツの数は少なく、価格は高い
この10年で、作家や出版社側も電子書籍に慣れた。同じコンテンツが、あちこちのストアに並んでいることも珍しくはない。メーカーごとの「囲い込み」をされたままでも、ユーザは本を読みやすい状況になりつつあるのは事実だ。しかし十分な数が出そろっているかというと疑問がある。
日本では1年に7万5000点前後の新刊が発行される。直近10年分でも75万冊はあるという計算だ。しかし、Amazonの「kindle store」で約100万冊、楽天の「Koboイーブックストア」で240万冊。これは「青空文庫」で公開されているような著作権の切れた旧作や、世界各国の言語版を含んだ数だ。
日本語の最新刊は、どれだけの数入っているのだろうか? 書籍として流通させづらいマニアックなテーマの本なども、流通障壁の少ない電子書籍でこそ読みやすくなりそうなものだが、現状では「人気作を優先的に書籍化するので精いっぱい」というようにも見える。
また、価格に関しても「紙を綴じた書籍という物体が入手できないのに、高すぎる」という意見もある。印刷・配送コストが不要なのにもかかわらず、多くの電子書籍は、紙の書籍とあまり変わらない価格で販売されているのが現状だ。
特にマンガコンテンツの場合、すでに絶版になった旧作などが電子化されていることが多いが、価格は新作と同じだ。これでは新古書店や古書店で買って読む、という層には受け入れられないだろう。
一方で、「内容だけ読めればよいのではない」という本好きの人々は、書籍という形態を好んでいたり、マンガの見開き表現や小説の文字組みなどにもこだわることが多く、電子書籍には馴染みづらい。
気軽に読めることこそ電子書籍のミソなのだとすれば、コンテンツは安価かつ大量にあってほしい。例えば、携帯コミックのように、1作品を細かく分割してしまうのも1つの方法だろう。無料で1話読み、数十円である程度読んでから、続きを買うかどうか考えられるのが携帯コミックでは当たり前だ。
実は日本は、携帯コミックを数に入れると、かなり電子書籍が普及している国らしい。先行成功事例として参考にしてほしいところだが、マンガ雑誌の1話分ずつの切り売りや、書籍の1章ごとの販売といった手法は、今のところ出版社などのコンテンツホルダー側は好んでいないようだ。