従来のゲーム専用機でプレイされていた恋愛シミュレーションゲームは、本格的であるがゆえにゲームのシステムが複雑で難度も高かったため、ゲームに手軽さを求めるライトユーザーが多い女性には、はやらなかったのだ。しかし、凝ったゲーム性が受け入れられにくいスマホのアプリゲーム用に、簡単な操作と易しいシステムの乙女ゲームが登場。潜在的には恋愛シミュレーションゲームの需要はあったが、取っつきにくさで敬遠していたという女性たちが飛びつき、スマホでプレイする乙女ゲームブームが巻き起こったという流れがある。
そして現在、数多くの乙女ゲームのヒット作が生まれたことで、逆輸入的に男性向け・スマホアプリの恋愛シミュレーションゲームにも再度火がつき始めているという状態だ。中でも昨年末から今年にかけて、あるゲームのテレビCMがネットを中心に話題となった。
サイバーエージェントが運営するインターネットサービス「Ameba」が提供している男性向け恋愛アプリゲームで、“耳で萌える学園恋愛ゲーム”と銘打たれた『ガールフレンド(仮)』。豪華声優を配した各ヒロインたちが自己紹介していくCMが話題になり、無料動画共有サイト「YouTube」にアップロードされたそのCM動画は、1月31日時点で再生回数・約120万回を記録。またそれに伴い、ゲームのダウンロード数は400万を突破(1月時点)という快挙を達成しているのだ。
もちろん、これだけではない。ヒロインたちとルームシェアをして恋をする恋愛アプリゲーム『ただいまっ!うちカノジョ』(モバイルファクトリー)も100万ダウンロードを突破するなど、スマホアプリの男性向け恋愛ゲームはブームの兆しを見せているのである。
そこで前述の『ガールフレンド(仮)』のプロデューサーを務めるサイバーエージェントの横山祐果氏に、男性向け恋愛ゲームに関する現状や同作のヒットの要因について話を聞いた。
月間売上高14億円、止まらない市場規模拡大
そもそも、なぜ男性向け恋愛アプリを制作したのだろうか?
「もともと『Ameba』の利用者は7割ぐらいが女性だったのですが、男性ユーザーに利用してもらえるよう男性向けゲームを強化していこうと考え、美少女を前面に押し出したタイトルをつくることになったんです。ただ、美少女ゲームはスマホのアプリゲームでは少なかったものの、ゲームのジャンルとしてはすでに市場にも多かったので、後発で勝つために今までにない新しい要素を盛り込めいないかと考え、『声』という要素に着目したんです。当時はまだ音声を使ったゲームはそう多くなかったことから、豪華声優陣を起用したゲームをつくろうと考えたんです」
『ガールフレンド(仮)』は、アイドル的な人気を誇る女性声優陣がヒロインに声を当てているのが人気の秘密。コンセプトである“耳で萌える学園恋愛ゲーム”はこれに由来しており、テレビCMが注目されたのも人気声優を起用しているという点が大きいようだ。
「おかげさまで、テレビCM投下時期にはユーザー数が急増しました。特に今年のお正月のCMは、ヒロインキャラのひとりであるクロエ・ルメールがネットで話題になったこともあり、新規のお客様の1日の登録数が、多い時で通常の数倍~10倍になったこともありました」
サイバーエージェントが発表した2013年9月期通期決算説明会資料によると、同作は月間14億コイン(100コイン=105円)とあり、『ガールフレンド(仮)』単独で月間14億円を売り上げていたことになる。横山さんは今後、同作を「誰もが知っている国民的なゲームにしていきたい」と語っているが、スマホアプリの男性向け恋愛ゲームはどうなっていくのか。
「ゲーム数は増加していくと思いますね。スマホの機種本体の機能も高まり、今まではゲーム専用機でなければ実現不可能だったアニメーションなどが可能になり、恋愛ゲーム好きのゲーマーの方々にも納得いただけるクオリティーの作品が、多数登場してくると予想しています。スマホの普及率が高まると共に、より多くの方がスマホゲームへ流れてくるでしょうし、市場規模は拡大していくでしょうね」
実際に話題の3作品をプレイ
早速、筆者のスマホにいくつかの男性向け恋愛アプリをダウンロードしてプレイしてみることにした。
まずは『ガールフレンド(仮)』。ヒロインたちのカードを集め、ストーリーを進める中で数々のミッションをクリアし、他のユーザーとバトルを行うというゲーム。レア以上のカードには声優のボイスがついており、個性豊かなヒロインたちの声を楽しむことができた。実際にプレイしだすと、頻繁にゲームイベントが起こるため、電車の中やちょっとした待ち時間などに起動することもしばしば。ゲームが進行するとデートチケットというアイテムを手に入れることができ、お目当てのヒロインをデートに誘うことができるのも楽しい。デートの日を指定することができるのだが、その日が待ち遠しくなってしまうこと請け合いだ。
次は『返信ください』(ベーシック)。なかなか珍しいタイトルだが、実はゲーム性をそのまま端的に表現したもの。ゲームをスタートすると名前と性別の選択が始まり、LINE風の画面が現れる。そしてさまざまなタイプの異性から届くメッセージに、選択肢の中から一番好感度が上がりそうなコメントを選び、自分に惚れさせていくというゲームだ。もちろんLINEのように既読マークが存在し、既読がついたのになかなかメッセージが届かず、やきもきするというところまで忠実に再現。まさに早く「返信ください」と言いたい気分になってくる。
最後は『恋愛リプレイ』(ブシモ)。社会人になった主人公が、なぜかいつの間にか高校時代に戻ってしまい、幼なじみらと恋愛を楽しむというゲーム内容。基本的にはヒロインたちと会話をしたり、スマホならではのタッチ機能を使ってストーリーを進めていくタイプの男性恋愛ゲームであるが、こちらも人気声優を贅沢に起用。クオリティーの高さで釘付けにされる。
3作品をプレイして、改めてスマホで男性向け恋愛ゲームが活況な背景が見えてきた。まず、スマホアプリゲームの特性とマッチして乙女ゲームがブームとなり、簡単で手軽な男性向けの恋愛ゲームも普及する土壌が出来上がったこと。それと同時にスマホアプリゲームのクオリティーも高まり、ゲーム専用機で従来の恋愛シミュレーションゲームを楽しんでいたコア層も納得できるほどの作品が登場してきたこと。この2つの要因により、多様性を得たスマホアプリの男性向け恋愛ゲームは、今後も市場拡大が期待されるジャンルといえるだろう。
(文=牛嶋 健/A4studio)