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「ぶっ殺すぞ」と被疑者を脅し証拠捏造する検察、冤罪とわかっても認めない裁判所

文=深笛義也/ライター
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 逮捕されて起訴されてしまうと、日本では99.9%が有罪になるというのは、よく知られた話だ。他の先進諸国では、それは7~8割ほどである。この問題について、『絶望の裁判所』では以下のように語られている。

<日本の刑事司法システムにおいて有罪無罪の別を実質的に決めているのが実際にはまずは検察官であって、裁判官はそれを審査する役割にすぎず、したがって無罪が希有な例外となってしまっていることにも、大きな問題がある。

  こういう制度の下では、検察官が恣意的に起訴、不起訴の別を決めることになるために、たとえば、強姦や横領等の立証が比較的困難な事案については、検察官は、無罪になる可能性が少しでもあると考えると、立件しない。無罪は検察官のキャリアの失点、汚点になるからだ。被害者は泣き寝入りということになる>

 驚くべきことに、有罪無罪を決めているのは裁判官ではなく検察官だというのだ。これは冤罪を生み出すだけでなく、有罪にしづらいケースは立件されず、法廷で論じられることもなく、被害者が不利益を被ることになる。

明らかになる司法の実態

 この99.9%がタイトルとなったドラマ『99.9 -刑事専門弁護士-』が、2016年の4~6月、2018年の1~3月、TBS系で放送された。0.1%の無罪を追求する弁護士を演じる松本潤が毎回オヤジギャグを飛ばすというコメディテイストだが、視聴者を笑わせながら司法の抱える問題に深く切り込んでいる。脇を固めているのは、香川照之、木村文乃、岸部一徳と豪華キャストだが、特徴的なのは 笑福亭鶴瓶が演じる東京地裁裁判長代行である。彼は「ええ判決せえよ」と部下の裁判官を励ますのだが、それは上層部の意向を汲んだ判決を出せという意味を含んでいる。一方で、再審法廷で無罪の判決を出した際に、謝罪する場面もあった。

 キーワードとして「訴因変更」が登場した回があった。訴状にはたとえば「3月2日の午後2時から4時の間に、被告は被害者を殺害した」などと書かれている。公判が始まってから、その日時などを変えることを訴因変更という。ドラマでは、女子高生への強制わいせつ事件で訴因変更が登場する。被告となった少年たちが事件があったとされる時刻、焼き肉店にいたというアリバイが証明されると、この訴因変更が行われるのだ。これは2001年に起きた御殿場事件がモデルになっていると思われる。アレンジが加えられているが事件の骨格は類似しており、当日の天候などが争点になっていることが共通している。

 ドラマでは弁護士やパラリーガルの奮闘で無罪を勝ち取る。実際の御殿場事件では少年たちは有罪となり、人生のうちの大切な時期を少年刑務所で服役することになる。放送では御殿場事件がモデルであるという明示はなかったが、ネット上ではこれが話題となり、これがきっかけで事件について書かれた長野智子著『踏みにじられた未来』(幻冬舎)を読んだ者も少なくなかったようだ。

 2018年10~12月にはドラマ『リーガルV〜元弁護士・小鳥遊翔子〜』がテレビ朝日系で放送された。米倉涼子が演じる主人公、小鳥遊翔子は弁護士資格を剥奪された、元弁護士。禁錮以上の刑に処せられた場合など、よほど人倫にもとる行為をしたときに、弁護士資格は剥奪される。弁護士資格はあるが実務経験はない大学教授を、小鳥遊が巧妙に口説き落として代表弁護士として弁護士事務所を開くという破格の設定だ。小鳥遊の口癖は「だって私、弁護士資格ないんだもん」で、指示を与えると実務は弁護士やパラリーガルにやらせてどこかに出かけてしまう。従来の情熱ほとばしる弁護士ドラマとはひと味もふた味も違っていた。

 痴漢やパワハラの冤罪が取り上げられた。痴漢冤罪を取り上げた回では、いったん逮捕されて否認していると長期拘留されて社会生活に支障を来すという、人質司法の問題が巧みに描かれた。

 裁判官と検察官を「あいつらズブズブね」と、小鳥遊が言い放つシーンがある。検察官と弁護士が対等にやり合って、裁判官が判決を下すのが裁判だと、捉えている人々もまだ多いだろう。だが裁判官と検察官は「判検交流」という交流人事がある。弁護士は事件ごとに異なるが、裁判官と検察官は巡ってくるさまざまな事件に、同じ法廷で審理に携わる。自然と一体感は強くなる。東京では地裁・高裁と検察庁は物理的に地下でつながっており、検察官が裁判官に相談に行くこともしばしばあるという。小鳥遊の“ズブズブ発言”は的を射ているのだ。

 捜査権、逮捕権、公訴権を持つ検察が裁判所と一体になっているのだから、弁護士というのは、実に無力な存在である。

 今年の1~3月にはタイトルもずばりのドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』が日本テレビ系で放送された。坂口健太郎が演じる弁護士が、 藤木直人が演じる物理学者の協力を得るなどして、真実を追究していく。はっきりとした無実の証拠が現れても有罪判決がでてしまうなど、必ずしもハッピーエンドに終わらず視聴者がもやもやさせられる回もあるが、そのあたりは、現実の法廷に忠実に描かれているといえる。死刑囚の無実を確信し再審請求しようとするが、過去のことを蒸し返したくないと娘から協力を拒まれるなど、加害者とされてしまった家族の苦悩も描かれていた。

 映画では昨年、『検察側の罪人』(原作・雫井脩介、監督・原田眞人)が公開された。正義をめぐって対立する2人の検事を演じたのは、木村拓哉と二宮和也。自らの信じる正義を貫くために、検事が殺人まで行ってしまうという大胆な展開だが、検事が証拠をねつ造することがあるということが、リアルに描かれている。

 痴漢冤罪を扱った『それでもボクはやってない』(監督・周防正行)が、2007年に公開されている。瀬木氏は『絶望の裁判所』で、この映画を「よくできた作品」としながらも、「私には、あの映画は、特にショッキングなものでも興味深いものでもなかった。なぜなら、ああいう事態がいつでも起こりうるのが日本の刑事司法の実態であることは、まともな法律家なら誰でも分かっていることだからである」と評している。

 上述したドラマや映画で描かれていることも同様なのであろうが、その実態が広く国民に知られるようになったのは、ここ数年のことであろう。

ごめんなさいが言えない裁判所

 6月10日には『0.1%の奇跡!逆転無罪ミステリー【実録…やってないのに】衝撃冤罪!4連発』がテレビ東京で放送された。田村淳が司会を務め、ゲストに東国原英夫、野々村友紀子、向井慧(パンサー)、須田亜香里(SKE48)が並ぶというバラエティ仕立ての番組だが、実際にあった4件の冤罪事件がドラマで再現された。苦難の末に無罪を勝ち取ったそれらの事件は、まさに0.1%の奇跡である。若狭勝(元東京地検特捜部副部長/現弁護士)、八代英輝(元裁判官/現弁護士)らの専門家が論じた。

 特筆すべきは、『検事失格』(毎日新聞出版)の著作もある、市川寛(元検事/現弁護士)が、「ぶっ殺すぞ」と被疑者を脅したり、調書を作文したり、証拠を捏造したという、検事時代に冤罪を作り出した過去を告白したことだ。それは新人時代に叩き込まれたことで、検事としてはごく当たり前のことであるという。再審無罪が多くなると司法への信頼が損なわれると最高裁は考えたのかもしれないが、もうすでに多くの国民は実態を知るようになっている。

 再び、『殺人犯はそこにいる』より引用する。

<「おかしいですよ。やっぱり。誰が見ても違うものは違うんですよ。どっかに間違いがあるとすれば、それを追求してもらいたいんです」

 そして菅家と呼び捨てにする検察官にこう言ったのだ。

「菅家さん。あえて『さん』をつけさせて頂きますが、菅家さんが無罪なら、早く軌道修正をして欲しい。捜査が間違っていたんであれば、ちゃんと謝るべきです。誰が考えたっておかしいでしょう」

 そしてこう続けた。

「ごめんなさいが言えなくてどうするの」>

 足利事件で犠牲となった松田真実ちゃんの母親、松田ひとみさんが検察官に向けた言葉だ。

 ごめんなさいが言えなくてどうするの。

 この言葉を、わが国の最高裁判所にも捧げたい。

(文=深笛義也/ライター)

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