鬼怒川の堤防決壊からまもなく1カ月、茨城県常総市にはふるさと納税や義援金が1億円以上も集まっているが、一方で支援団体を困惑させたのは同所で広まった陰謀説のビラだ。
「中国の天候操作 気象兵器で狙い撃ち」
こんなタイトルのビラが被災地の各所で貼られたり置かれたりしている。その内容は、兵器を使用して自国に雨を降らせている中国が、敵対する他国に意図的に局地的な大雨を降らせ水害を引き起こす実験をしているというもので、今回の水害との関連性は明記していないものの、それを匂わせる陰謀論が書かれている。
署名は「政治結社鬼怒川同志会」となっているが、臨時支援団体「常総水害被災者支援いばらぎ」の吉野正氏によると「文中に安全保障法案に賛成する記述があって、おそらくは中国を敵視させる政治的な意図があると思うのですが、根拠のない話で住民や被災者を不安にさせるようなことはやめてほしい」と話す。
気象庁が「平成27年9月関東・東北豪雨」と命名した9月9日から11日の豪雨では、期間中の総雨量が観測史上最多を記録した地域が続出。鬼怒川のほかにも、宮城県大崎市で渋井川の堤防が決壊するなど、多くの地域で水害が発生した。8名が死亡、多数の家屋が流され、農地も甚大な被害を受けた。
豪雨の原因は、台風17~18号の影響とともに、積乱雲の集まりである帯状の線状降水帯が発生したことによる。つまり、悪い気象条件が重なったゆえの被害だが、冒頭のビラでは7年前の北京オリンピックにおいて、中国が気象操作を行ったことを引き合いに出し、今回日本で災害を引き起こしたと述べている。
気象攻撃は可能?
中国は、気象操作について「年間2億ドルの予算を計上している」と認めている。雲の上に固体二酸化炭素(ドライアイス)の粉末をまいて温度を下げ雨粒をつくり出す手法や、雨粒の芯となる細かい粉をまくヨウ化銀法などが実験されてきたとされ、これはロシアでは雹の被害防止、タイでは干ばつ解消のためにも進められてきたものだ。ただ、常総市でまかれたビラでは、こうした技術が敵国への攻撃として利用されているという話が書かれている。実際にそんなことは可能なのか、国際情勢に詳しいインデペンデント通信の西村純氏によると「怪文書だと笑い飛ばせないところもある」という。