通常、大規模災害時には多くの部隊が「自主派遣」のかたちで現場に急行し、後日、都道府県知事から正式な要請文書を受け取り、結果的に「一般派遣」になることが多い。東日本大震災でも、当初自主派遣した自衛隊部隊が数千人の被災者を救助したことは記憶に新しい。
神奈川県や福島県の例を踏まえ、台風19号から何を学べるのか。東日本大震災の教訓をもとにした「大災害時における自治体と自衛隊の連携体制の確立に関する研究会」代表を務めた明治大学政治経済学部地域行政学科長の牛山久仁彦教授(行政学・地方自治論)に聞いた。
牛山教授の解説
今回の山北町の件では結局、なぜ自衛隊が給水活動をせずに帰ったのかについての事実関係が、まだわかっていません。具体的な現場の対応も、町役場が県や自衛隊に対して、どういう要請をしたのかも報道等では明確ではありません。ただ、神奈川県や各市町村も災害対応の最中で、まだ検証作業を行う段階ではないのも事実です。未だ行方不明者の捜索や復旧への努力が行われている状況で、災害は現在進行形で続いています。検証には時間がかかってもやむをえないところです。
そうした中、現時点で考えてみると、山北町への自衛隊の派遣は法的な枠組から見れば可能だと思います。自衛隊が町長の情報提供をもとに自主派遣したということで、法的問題はありませんでした。阪神淡路大震災の教訓を踏まえ、自衛隊は自ら現地で判断して出動することができることになっています。
話が複雑になったポイントは、国(自衛隊)と県の支援の両方が競合したところです。自衛隊にしてみれば山北町との関係では自主派遣と捉えられる事例だと考えます。給水という業務は公共性が高く、台風による断水は緊急事態であり、水を切らさないことは飲用のみならず医療や福祉、衛生と幅広い人命救助の観点からも重要です。問題は、派遣のもうひとつの要件になる非代替性です。自衛隊として悩ましいのは、自衛隊が出る以外に代替性があるかどうかということでしょう。県の給水車で足りるということになれば自衛隊に出動の必要はなくなるのですが、水を必要とする住民の緊急性に鑑みて自衛隊でなければ即時に対応できないと判断すれば、出動すべきであるということになります。これに加えて、「県の要請による出動」という通常の対応を整えるために、町が県に「自衛隊出動の知事の要請」を行う手続きを求めたことで問題が複雑になりました。
私たちの研究プロジェクト(「大規模災害時における自治体と自衛隊の連携に関する研究」)で議論した際も、こうした国・県・市町村の連絡体制や要請のあり方についての整理が十分でなかったことや、今後の市町村と自衛隊の連携のあり方が課題になっていました。14年 2月の豪雪被害の際、埼玉県で市町村が県に自衛隊の派遣要請を行いましたが、県は「除雪のための派遣要請はできない」と要請を行わず、救助活動が遅れたのではないかということが話題になったこともありました。