昨年の12月18日、オバマ米大統領は、米国の義務的原産地表示制度(COOL)の対象から牛肉及び豚肉(ひき肉を含む)を除外するための同制度の修正を含む一括法案に署名した。これにより、米国では牛肉と豚肉は原産国表示が義務でなくなり、消費者はどこの国から輸入されたのかを見分けられなくなる。一体、なぜこのような事態が起こったのか。
これまで米国では、COOLにより牛や豚の出生、肥育、食肉の処理が行われた国の表示が義務付けられていた。米国、カナダ、メキシコの3カ国では、フィードロットを3カ国横断的に経営を営んでおり、米国で出生してカナダで肥育し、メキシコで屠畜するというシステムをとっていた。カナダとメキシコ両政府は、牛豚の分別と記録の手間が増すことから輸入産品の競争上の不利益を被るとして世界貿易機関(WTO)に提訴され、WTO紛争解決委員会は、COOLがWTO協定違反との決定を下したのである。これを受けて、米国政府はCOOLの対象から牛肉と豚肉を除外したのである。
このニュースは、衝撃をもって世界的に配信された。もちろん、日本政府もこの問題には強い関心を持っており、WTO紛争処理委員会のパネルにも第三国参加というかたちで出席していた。
日本への影響
では、この原産地表示の問題が、日本にどう波及するのであろうか。日本でも原産地表示は行われており、加工品については原料のそれも実施されており、その対象品目の拡大が課題となっている。牛肉については、消費者が産地だけでなく出生から食肉の処理までの流通過程がわかるようにすること、いわゆる「トレースアビリティ」が義務付けられている。米については、輸入米も国名表示が義務付けられている。これらの表示制度が、輸入産品の競争上の不利益をもたらすとして、関係国からWTOに訴えられないか。その現実味が増してきたといえる。
特に問題なのは、TPP(環太平洋経済連携協定)である。TPPでは、第8章「貿易の技術的障害」の規定が盛り込まれ、「不必要な貿易の技術的障害を撤廃し、透明性を高め、規制に関する一層の協力及び規制に関する良い慣行を促進すること等により貿易を円滑することを目的」としている。技術的障害の対象には、すべての強制規格、任意規格が入っており、義務的表示制度はここでいう強制規格になるのである。
要するに、義務的表示制度が不必要な貿易の障害とされれば、当然撤廃される対象となるのである。牛肉と豚肉の原産地表示を廃止した米国のみならず、原産地表示で米国政府を訴えたカナダ、メキシコ両国もTPP加盟国である。日本に対しても米国、カナダ、メキシコから牛肉と豚肉が輸出されている。