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日本と同じ文化を持つフェロー諸島出身のメタルバンド・TYRが語る”捕鯨”とは?

奥村裕司
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日本と同じ文化を持つフェロー諸島出身のメタルバンド・TYRが語る捕鯨とは?の画像1
拳を掲げているのがTYRのヘリ

 昨年12月、デンマーク自治領フェロー諸島出身のメタル・バンド、TYR(英語圏では“ティアー”と呼ばれているが、フェロー現地での発音は“トゥイジュ”)が初来日を果たした。TYRのフロントマン(リード・ヴォーカル兼ギター)のヘリ・ヨーエンセンは、フェロー諸島の伝統文化である捕鯨や鯨食について、積極的に発信していることで知られる。しかし、それが原因で反捕鯨派や自称“環境保護団体”から糾弾され、様々に活動が妨害され、時にはTYRのライヴが中止に追い込まれることさえあったという。

 古来からの捕鯨国に生まれた者として、また、幼いころから鯨食に慣れ親しんできた鯨料理好きとしても、この件に関しては大いに興味があった。そこで来日公演の合間を縫って、ヘリに直撃インタビューを敢行。様々に議論を呼んでいる問題だけに、取材に応じてもらえるかちょっと心配だったが、そのことを切り出すと、ヘリは「待ってました!」とばかりに笑みを浮かべた。以下は、ジェントルかつ理知的な語り口で彼が語った一部始終である…!!

──鯨のことについてお訊きしてもイイですか?

ヘリ:ああ、もちろんさ! というか、「訊いてくれないのかな?」と思っていたんだよ(笑)。ぜひ、そのことについて話したいね。

──日本が捕鯨国で、日本人が鯨を食べることはご存知ですか?

ヘリ:ああ。よく知っているよ。素晴らしいことだね。

──あなたは以前、Facebookに鯨の解体の様子をポストしたことがありますが、捕鯨船に乗っていたことがあるのでしょうか?

ヘリ:いや、生まれてこの方、一度も捕鯨船に乗ったことはない。それどころか、フェロー諸島にもう捕鯨船は存在しないんだ。大規模な捕鯨は’80年代に終わったよ。もしかしたらこの先、また再開されることがあるかもしれないけどね。現在は、浜辺で追い込み漁を行なっているだけだ。陸に近づいてきたゴンドウクジラを捕まえるのさ。フェロー諸島において、鯨は大切な食糧資源として大きな割合を占めているからね。

──では、あの鯨の解体はどんな状況で…?

ヘリ:自分で鯨を解体してる写真をアップしたのは、’16年のことだった。フェローでは現在、島民が協力して鯨を捕獲している。そして、解体に協力すれば、その鯨の肉をタダで分けてもらえるのさ。だから、お店やスーパーマーケットなどで鯨の肉を買うことは出来ないんだよ。

──そうなんですね! 日本では、町のスーパーでも鯨肉を買うことが出来ますよ。

ヘリ:そりゃイイね。ちなみにそれって、日本で捕獲した鯨? それとも、ノルウェーとかアイスランドから買っているのかな?

──少なくとも私は、国産(日本産)の鯨肉しか食べたことがありませんが、少しは輸入しているのかもしれませんね。(※実際、ノルウェーとアイスランドの両国から輸入している)

ヘリ:そうか。俺も(日本のスーパーで)買ってみたいなぁ。

──鯨料理の専門店も、あちこちにありますよ。

ヘリ:それはぜひ行ってみたいね。

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ヘリのSNSにアップされた鯨の解体の様子(※画像の処理は編集部によるもの)

──先ほど「島民が協力して」とおっしゃいましたが、フェローではどのように鯨を捕獲しているのですか?

ヘリ:鯨が島に近づいてきているのを発見した漁師が、まず警察に連絡を入れる。そして警察は、地区・地域ごとにいる班長にそれを伝えるんだ。すると班長が、天気や時刻など、様々な状況を考慮し、条件が整えば、捕獲開始ということになる。その後は、その知らせを聞いた地域の人達が集まり、小さな漁船で沖から追い込み、みんなでフックを使い、浜辺へと引き上げるんだよ。

 その後、頸動脈と延髄を切り、鯨を絶命させると、解体出来る場所まで運び、そこで鯨肉を求める人達によって思い思いに切り分けられる……というワケさ。

──しかし、そのことでTYRとあなたは反捕鯨派から攻撃を受けていますね?

ヘリ:彼等は、実際には反捕鯨団体なんかじゃないよ。ただカネ儲けがしたいだけの、嘘吐き集団だ。’80年代のある日、シーシェパードのポール・ワトソンがフェロー諸島へやって来て、捕鯨を中止するよう言ってきた。でも、フェローの島民は、すぐに彼の“嘘”を見抜いたんだ。彼等は別に、捕鯨を止めて欲しいワケじゃない。ただカネ儲けがしたいだけだと、みんな気付いたのさ。

 俺が攻撃されるようになったのは、例の鯨解体写真をアップしたのがキッカケだった。それを見たポール・ワトソン率いるシーシェパードが、ライヴの開催を妨害するようになったんだ。連中は、人々にコンサートをボイコットするよう仕向けてきた。最初は、連中の思惑通りになったよ。プロモーターからも、「きちんとした捕鯨をしていないのであれば、キミ達のコンサートをキャンセルしなければならない」と言われたしね。

 それ以降、ツアーに出る度に毎回、抗議する人達が現れたよ。特にヨーロッパ──ドイツ、フランス、オランダ…などだね。あとアメリカでも。どこへ行っても、そういった人達はいるんだ。そこで俺は、フェロー諸島の捕鯨についてのヴィデオを制作し、ちゃんと理解してもらおうとした。そのおかけで、今では殆どのショウがキャンセルされなくなったよ。多くても、10公演はキャンセルになっていないんじゃないかな。大抵の場合、何も起きず、無事にライヴを終えることが出来る。

──それは良かったです。ところで、日本がIWC(国際捕鯨委員会)から脱退し、調査捕鯨を終え、商業捕鯨を再開したことはご存知ですか?

ヘリ:ああ、知ってるよ。しかし、IWCって奇妙な団体だよね。不幸なことに、環境保全主義者や“活動家”達に引き継がれてしまった。北欧には、NAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会)という団体があって、彼等が鯨を始めとする海洋資源を管理しているんだ。

──『ザ・コーヴ』という映画を観たことがありますか?

ヘリ:ないよ。でも、その映画のことは聞いたことがある。俺は、カネ目当ての組織からの情報は信用しない。連中は世界中の人々に向けて、出来る限り(捕鯨などについての)最悪なイメージを植え付けようとしているだろ? それでカネ儲けをしている。そういうことがやりたいだけなんだよ。

 フェロー諸島の人達は、最初にシーシェパードを見た時から、連中が嘘吐き集団だとすぐに察した。ポール・ワトソンなんて、30年間も反捕鯨のことに関わっていながら、未だに基本的な事実すら分かっていないんだからな。そんな状態でずっと関わり続けているなんて、本当にあり得ないよ。でも、それこそが彼のトリックなんだ。我々は、’75~76年ぐらいから、ずっとそのトリックを見させられてきているのさ。

 だから俺は、『ザ・コーヴ』を観ていないし、今後も観るつもりはない。連中からの情報なんて、全く信用出来やしないからね。

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初来日時のライブショット

──出来れば、反証する立場で制作された『ビハインド・ザ・コーヴ』と一緒に観て欲しいのですが。

ヘリ:その映画も知っているよ。知り合いが観て、「大したことない」と言っていたな。

──『ビハインド・ザ・コーヴ』は、日本で制作された『ザ・コーヴ』に対する反論のための映画なので……。

ヘリ:いや、日本の捕鯨が置かれている状況について、俺はよく知っているよ。日本の立場も理解している。捕鯨の他にも、(北欧には)ノルウェーのヘラジカ猟の問題などがある。でも、俺はちゃんとそれぞれの(立場の)違いを分かっているんだ。

──今後、様々な団体などから攻撃や脅しを受け続けても、捕鯨や鯨食を止めることはありませんか?

ヘリ:考えを変えるなんてことはしちゃいけないよ。とくに嘘を吐いているような連中のためには……ね。もちろん、それで良い方向になるのであれば、きちんと考えるけどさ。でも、そうじゃないだろ?

 真剣に捕鯨を止めさせたくて活動している、シーシェパードとはまた違った組織なら、まだ理解出来なくもない。でも、ポール・ワトソンにしても、シーシェパードにしても、連中はただ金儲けのためにやっているんだからね。彼等は捕鯨を止めさせたいワケじゃない。それどころか、もし捕鯨が行なわれなくなったら、他に何か攻撃対象を見つけるに違いないよ。

 だから俺は、考えを変えるつもりなんてない。もし鯨が絶滅の危機に瀕したりしたら、その時はすぐ考えを改めるけど。誰も絶滅なんてして望んでない。しかし……実際には、(鯨の種類によっては)何百万頭といるんだからさ。

──鯨が増え過ぎて、魚が減ってきている…といった報告もありますね?

ヘリ:ああ。さっきのヘラジカの話だけど、スウェーデンでは、毎年何十万頭ものヘラジカが狩られているらしい。結果、(生息数の)半数が殺されていることになる。(※実際には約10万頭、毎年25%のヘラジカが狩猟されている)ただ、それにより生態系が維持しやすくなっている……との見方もあるんだ。それと同じように、海の中の生態系──生物の数も、陸地の動物と同様に維持した方がイイんじゃないか…と思うよ。

 まぁ、そういったことはエキスパートであるNAMMCOにお任せするよ。彼等はどれだけの鯨がいるかといったことを、ちゃんと把握しているんだからね。その結果、そうしたエキスパートが何かを提言した時、俺はそれを支持することにする。

──最後に、このインタビューを公開しても問題ありませんか?

ヘリ:そんなことは心配しなくて大丈夫さ。もし何かされても、“無視するのが一番”だって俺達は分かってるし。いちいち怯えるなんておかしいよ。そんなのは間違っている。ぜひ、載せてくれたまえ!
(通訳/翻訳=AKIKO TOMIYAMA)
(文/構成=奥村裕司)

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