新型コロナウイルスの感染拡大による深刻なマスク不足が続く中、静岡県議会議員の諸田洋之氏がインターネットオークションにマスクを大量出品していた問題が波紋を呼んでいる。出品されたマスクは10年前にMERS(中東呼吸器症候群)が流行した際、自身が経営する貿易会社で大量に仕入れたものだという。
諸田氏は2月4日から3月6日までの間に医療用マスク2000枚セットなどを89回にわたって出品し、合計888万円を売り上げた。平均落札価格は約8万円で、最高額は17万2368円にものぼったという。
諸田氏は記者会見で「転売ではない」「暴利を得ていたわけではない」「会社でやっていた」と釈明したが、苦しい説明と言わざるを得ず、納得できる人はいないだろう。また、諸田氏は経営していた会社の社長は辞任するが、県議は続ける意思を示しているという。
マスクの品薄に伴う高額転売が問題となり、ついに政府がマスクの不正転売を罰則付きで禁止する政令を閣議決定する事態となっている。また、諸田氏の地元である焼津市でもマスク不足が叫ばれていた。そんな中、今回の一件は、諸田氏の認識の甘さと往生際の悪さを世間に露呈する機会になったといえるだろう。
888万円を手にして7000万円を逃す結果に?
「本来なら有権者にタダで提供するべき」との声もあるが、公職選挙法で政治家から有権者への物品提供は禁止されており、そうした行為も買収にあたる可能性がある。
では、諸田氏はどうするのがベストだったのだろうか。ある市議会議員が答えてくれた。
「諸田県議はYouTubeでも政治活動をしていたようですね。私なら、YouTube で『政治家による無償提供は公職選挙法違反になるのでできませんが、仕入れ値と同じ価格でご提供いたします。高齢者ホームには優先的に販売いたします』と呼びかけたでしょう。政治家はイメージが命です。今回の件で言えば、損得勘定抜きでマスクを売り、知名度を上げるべきでした」
いずれにしろ、次の選挙で諸田氏が当選する見込みはないと考えるのが自然だろう。県議会議員の平均報酬は年間963万円で、期末手当(ボーナス)を加えると平均1369万円にも及ぶという。任期は4年なので、当選すれば4年間で約5400万円が“保証”されることになる。これに加え、「第二の給料」とも呼ばれる政務活動費が年間平均440万円も支給される。4年間の報酬の合計は、ざっと7000万円を超える計算だ。
つまり、諸田氏は目先の利益である888万円を手に入れたことで、将来の7000万円をフイにしてしまいかねないわけだ。一連の行動で、諸田氏は政治家にとってもっとも大切な信用を失い、代わりに見えてきたのは“銭ゲバ”感丸出しの本性だ。「損して得とれ」とは真逆の行為であり、まさに自業自得だろう。
(文=井山良介/経済ライター)