熊谷組は追加損失が発生
パークスクエア三ツ沢公園の住民説明会で、住友不動産は建て替え費用や住民への補償に関して、「発生する費用の大半は熊谷組が負担する」(伊藤公二取締役副社長補佐)と述べた。「負担する割合は決まっていないが、住友不動産の業績に与える影響は軽微」と説明した。施工した責任者である熊谷組がほとんどを被ると言明したわけだ。
熊谷組は全棟を建て替えるのに伴い、16年3月期に追加で損失が発生する。16年3月期の連結決算の売り上げは前期比5%減の3425億円、純利益は2.4倍増の129億円の見込み。建築・土木とも減収となるが、工事採算が好転し増益になる。「特別損失(追加損失)を計上しても、純利益の見通しを大幅に変更することはない」と説明している。
熊谷組はマンションの施工不良問題が発覚した14年6月以降、建て替えや補修、住民の仮住まいのための費用として計81億円の偶発損失引当金を計上している。これは、恐らく1棟分を想定したものだろう。
しかし、5棟全棟建て替えると費用は大きく膨らむ。350億円以上に上るとみられる費用の大半を負担すると、熊谷組の収益は悪化する。
4棟全棟の建て替えが決まった三井不動産レジデンシャルのマンションを施工した三井住友建設の株価は2月12日には81円と昨年来安値を更新した。株式市場では株価100円割れは、“破綻銘柄”といわれている。建て替え費用の負担増を懸念して三井住友建設の株価も下落した。
全棟建て替えは施工した建設会社の株価の重石になることは間違いない。
中小業者に全棟建て替えは死刑宣告に等しい
全棟建て替えを提案できるのは販売元が三井不動産レジデンシャルや住友不動産という大手デベロッパーで、施工が三井住友建設、熊谷組という準大手ゼネコンだからである。
問題の解決が長引いて他のマンションの販売にも影響が出ることを恐れて、カネで決着を急いだということだ。大手はそれで乗り切れるかもしれないが、中小企業が販売主だった場合、そうはいかない。「悪しき前例になった」と建設業界の幹部は苦り切る。
販売主が中小のデベロッパー、施工が中小の建設会社といったケースで、4棟も5棟も建て替えたら、経営が悪化し倒産する可能性もある。
もともとマンション工事は利益率が低く、周辺住民との折衝で手間がかかると敬遠するゼネコンが多い。全棟建て替えがスタンダードになれば、マンションの工事はリスクが高すぎるとして受注しないゼネコンが増えることになろう。
あまり中小のデベロッパー、中小の建設会社が施工した小型マンションの欠陥を耳にしないが、問題が起きていないわけではない。実は、トラブルはよく起きているが知名度が低いことからマスコミが取り上げないため、問題が周知されていないだけだ。横浜の2つのマンションの欠陥問題は、大手デベロッパーのマンションだから、マスコミがこぞって取り上げたにすぎない。
今後、欠陥マンションは全棟建て替えが基準になる。その恐怖にたじろぎ、中小はもとより大手やスーパーゼネコンまでもがマンション受注に慎重になっていく可能性が高い。
(文=編集部)