ヤクザ社会からもはみ出し、かといって一般社会ともうまく折り合うことのできなかった男は、自暴自棄になっていたのだろうか。
今月18日、新型コロナウイルスに感染していた元暴力団組員の50代の男性が、肺炎により入院先の医療機関で亡くなったことが確認された。この男性は、新型コロナウイルスに感染していることが発覚すると、自宅待機を保健所から求められているにもかかわらず、その要請に応じることなく、「ウイルスをうつしてやる」と飲食店などへと出向いたことで問題になっていた。
その乱暴な発想は、ある意味においてこの男ならではの、“成れの果て”のものだったといえるのかもしれない。
男は現役組員だった2006年、愛知県内で停車中に後続車にクラクションを鳴らされたことに激昂し、相手の男性に暴行を働いて、1000円を脅しとったとして愛知県昭和警察署に逮捕されている。
だが、2012年11月、同県蒲郡市元町の信号交差点で、同県豊川市内の男性が運転する乗用車と衝突し、救護措置などをせずにそのまま逃走を図って摘発された際には、組員としては登録されていない。この時には、すでにヤクザ社会からなんらかの形で足を洗っていたことになる。ただ、仕事には就いていた。
それが2018年1月に、恐喝容疑で愛知県蒲郡警察署に逮捕された時には、無職となっていた。
「この時に脅しとった金額は3000円という話です。原因は隣人とのトラブル。隣人の椅子を引きずる音がうるさいと腹を立て、『殺す』などと脅して、引っ越し代という名目で3000円を脅しとったようです。金額から見ても、その日の生活に困窮していたのではないでしょうか」(実話誌記者)
すべての犯行が短絡的で直情的。一言でいえば、子どもじみているといえるだろう。そして今回、新型コロナウイルスへの感染が確認されると、その怖さを自分ひとりで抱えられなくなったのか、他人にウイルスを感染させてやるという思考に到達してしまっている。そして、その行動が社会的に問題視され、警察は飲食店に対する業務妨害の疑いで捜査を進めていたが、立件の前に結局、持病持ちの男性はウイルスの影響で亡くなってしまったのであった。
保険所の要請通りに自宅待機し、その後、医療機関に入院していれば、社会から糾弾されることもなければ、容態が回復したことも十分に考えられたのではないだろうか。最期まで組織や社会との協調を拒んだかのように見える元ヤクザ。彼をこうした思考にまで追い込んだのはなんだったのか。ヤクザという経歴が、彼に社会からの疎外感を生じさせたか……今となっては、答えは誰にもわからない。
ところで、ヤクザ業界内でも、新型コロナウイルスの影響で、会合などを中止するなどの対応策がとられている。また、ある現役組員が新型コロナに感染したとの情報が流れ、ある組織では外出を自粛するように呼びかけられているという。
「現役の組員が感染したということで、ある不安が業界内に広まりました。それは、体調に不安を持った組員たちが、医療機関を保険適用で受けられるのかというもの。暴力団排除条例があるので、そうした利益を得られないのではないかという声が一部にありましたが、実際にはそこに制限はかけられていません。組員であっても国民健康保険には加入できますし、加入済みの組員は保険適用で医療機関を受診できます」(ジャーナリスト)
新型コロナウイルス問題は、普段は日の当たることがない社会の裏側やその住人たちにも、さまざまな影響を与えているようだ。
(文=沖田臥竜/作家)