休校の要請から始まり、選抜高校野球の初めての中止、プロ野球の開催延期、そして今、オリンピックの延期までもが現実味を帯びてきた。さらに、マスクに加えて、デマによるトイレットペーパーやティシュの品切れ状態。経済の悪化はどこまで進むか先行きが見えず、誰もが予想もしていなかった事態に突入してしまっている。
そうした中で、日本社会では反社会的暴力団と位置付けられたヤクザが、各々で物資支援の活動をしているのは、あまり知られていない。
「ある組織の最高幹部は、縄張り内の福祉施設にマスクを無料で提供しています。ただ、先方に迷惑をかけてはいけないと、身分は公にはしていないといいます。個々が目立たないように、マスクに限らず、足らない物資を無料で配布しているという話が各方面から聞こえてきます。それは六代目山口組に限ってのことではなく、神戸山口組サイドでも、そうした活動が個々で行われているようです」
先日一部報道で、髙山清司若頭(六代目山口組若頭)のつけているマスクが、今では簡単に入手できない高級品だと報じられていたが、ヤクザには、独自の流通ネットワークがあり、小売店の店頭では品薄の商品でも、それらを入手できるルートを確保しているケースが多い。過去にも、震災などが起きた際、多くのヤクザが支援を行い続けきた。彼らは、時にその行為が売名行為だと社会からバッシングを受けようが、そうした活動を止めることはなかった。そこに対して、社会の評価など求めていないのだ。世間から忌み嫌われようとも、仮に損をすることになっても、人知れずそういった活動を行うことのできる原動力を、多くのヤクザ組織が持っていることは事実だ。
筆者は、ヤクザを「必要悪」とは思わない。「暴力団」という烙印を押され、自分たちの筋を通すためには暴力をもいとわない、つまり毒をもって毒を制するようなヤクザのやり方は、現在社会には必要とされていないだろう。そのために、国家はさまざまな法律で、ヤクザの人権さえ剥奪しようとしている。だが、不思議なことに、暴力団排除条例などで徹底的にヤクザの行動や生活を締め付けても、結社罪のような、組織を結成、維持すること自体を禁止する法律だけは適用しようとだけはしない。それは、今回のような思いもよらぬ混乱期に、任侠を重んじるヤクザとしての行動が社会に必要とされる側面があると考えられているからではないだろうか。
「任侠道といった難しいことは我々にはわからない。ただ、近所で困っている人がいれば、手をさしのべるのは当たり前のこと。目の前の人が喜んでくれれば、それでよいのではないか」(あるヤクザ組織の関係者)
そうした一方で、この混乱期に紛れて新型ウイルスに関連した特殊詐欺が多発し始めている。
「社会が騒げば騒ぐだけ、その不安や不安解消のために新たに作られるシステムを逆手に取り、金銭に変えようと目論む集団が出てくるのが実情です。今後、緊急的な制度が発足し莫大な予算が動く予定の新型コロナ関連の補助金や休業補償などがターゲットとなり得るでしょう」(犯罪事情に詳しいジャーナリスト)
ヤクザの中には、独自のネットワークを使い、無償でマスクなどを提供する者がいれば、それを買い占めて高値で転売したり、国民救済のための新制度を特殊詐欺の材料にしたりしようとする者も存在する。そして、これは一般人に対してもいえることだ。いわずもがな大切なことは、「反社だから」「一般人だから」という属性で区別することではなく、悪いことは悪い、良いことは良いという絶対的な価値観で事象を捉え、そこに関わる人々を評価することだ。
今後、この混乱はさらなる混沌を迎えることになり、社会にも、そして裏社会にもさまざまな影響を与えることになるだろう。世間では、昨年末から激化していた山口組の分裂問題の行方に注目が集まっていたが、その成り行きにも影響を与えることは必至だ。この点はあらためて報告したい。
(文=沖田臥竜/作家)