大手新聞社長、保身のために海外に飛ばした愛人と再燃し同棲生活!?
北川と小山の2人は老女将に見送られ、「美松」を出た。今度は北川が小山に問い質した。
「村尾社長は、どうして社長車やハイヤーを使わないのか?」
「社長はもう30年くらい、都内にマンションを借りて奥さんと別居しているんです。自宅が藤沢の鵠沼で遠いというのが理由で、土日は自宅に帰っていることになっていますが、それも怪しいですね」
「どうして?」
「土日に鵠沼の自宅に電話しても、いないんですよ。村尾は秘密主義で、携帯電話はもちろん、借りているマンションの住所も電話も極秘扱いで、側近にしか教えていません」
ここまで小山が話したところで、水天宮通りに停まっているハイヤーのところに着いた。
「続きは今度にしましょう。車の中はだめです。いいですね」
車に乗るよう促された小山は唇に人差し指を当て、笑った。続いて乗り込んだ北川が、「運転手さん、茅場町に行ってくれ」と指示、運転手は黙って車を発進させたが、北川の意外な指示に驚いた小山が小声でささやいた。
「大手町に戻るんじゃないんですか」
「まあ、いいじゃないか」
北川は小山に耳打ちした。しばらくして運転手が聞いた。
「茅場町はどこで停めますか」
「そうだな。交差点のところでいい」
「わかりました」
会話は途切れたが、それは数分のことだった。茅場町の交差点に着いたからだ。
「ここでいいですか」
「いい、ここでいい。そのまま社に戻ってくれ。俺たちは、この辺でもう一杯やる」
北川はそう言って、ドアを開けた。
「え? 本当にもう一杯やるんですか。我々、コートなしで出てきていますよ」
北川に続いて降りた小山が、不満げな顔をした。
●他社からの取材は拒否する策
「いや、飲まないさ。もう少し、君の話を聞きたかっただけだ」
「え、続きですか。でも地下鉄で話すのはまずいですよ」
「少し酔い覚ましに歩こうぜ。ところでな、日亜って社員名簿はないのか?」
北川は交差点を日本橋方向に渡り、歩き出した。
「個人情報保護っていうことで、10年以上前からつくっていません。本当は週刊誌などのマスコミに、社員の住所を知られないようにするのが狙いですけどね」
足早に歩き始めた北川を追うように小山が答えると、北川が振り向き、二の句を継いだ。
「うちも同じさ。新聞だってマスコミなのに、マスコミの取材を受けたくないっていうのは自分に唾するような話だけどな。でも、それで俺たち、安泰なんだ……」
「社員名簿はなくても、内部的な緊急連絡用の名簿みたいなものはあるんじゃないか?」
北川は畳み掛けるように、隣に並んだ小山を見た。
「それはありますが、それも鵠沼の住所です」
「都内の住所は載せないのか」