「どうせ世論はそのうち忘れるから、気にすることない」
急激な内閣支持率下落にも、安倍晋三首相はまったくこたえていないらしい。ツイッターなどのSNSで反対の声が沸き起こった「検察庁法改正案」の強行採決断念に続き、渦中の黒川弘務前東京高検検事長が緊急事態宣言下で記者らと「賭けマージャン」をしていたことが発覚。黒川氏が辞職した直後に行われた世論調査は、安倍政権の土台を揺るがすような結果だった。
毎日新聞は内閣支持率が27%(前回40%)、不支持率は64%(同45%)。朝日新聞は支持率29%(前回33%)、不支持率は52%(同47%)。ともに「危険水域」と呼ばれる支持率20%台に突入した。内閣支持率と同時に自民党の政党支持率も下落(毎日は30%→25%、朝日は30%→26%)したため、自民党内はざわついたが、当の安倍首相は冒頭のように楽観的だ。
理由は、6月17日に国会が閉幕すれば「局面転換」が可能だと見ているからだ。会期末までの残り半月は、5月27日に閣議決定した第2次補正予算案の審議が行われる。政府・与党は補正予算を会期内に成立させ、会期延長はしない方針。
その後は、「外交の安倍」再び、である。今年のG7サミット(先進7カ国首脳会議)は米国が議長国。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、米国は当初、テレビ電話会議形式でのサミット開催を決めていた。ところが、トランプ大統領のツイッター投稿という“鶴の一声”で、対面方式の通常開催への変更が急浮上。これに真っ先に「参加する」と反応したのが安倍首相だった。サミットは、6月下旬に米ワシントンのホワイトハウスや、近郊の大統領山荘キャンプデービッドで開催されることが検討されていた。
「トランプ大統領と安倍首相は一蓮托生。『シンゾウはオレの大統領再選に協力してくれるんだよな』と念を押されている。トランプ大統領がサミットをテレビ電話ではなく、対面方式でやりたいのは、今年11月の米大統領選に向けてのアピールであることは間違いない。だから安倍首相が真っ先に『賛意』を示し、通常開催の流れをつくった。訪米すれば当然、日米首脳会談が行われる。同行記者も訪米し、メディアの報道が外交中心のムードになれば、世論は黒川問題などすっかり忘れますよ」(首相官邸関係者)
世論の関心を別のテーマに向けて「局面転換」
ほかにも局面転換の材料はいろいろ。プロ野球が6月19日からの無観客試合によるシーズン開幕を決定したが、「国会閉幕直後の週末だ。安倍首相が親しい読売新聞と日程を調整したのではないか」(自民党関係者)という穿った見方まである。
安倍首相は、窮地に陥るたびにメディアや世論の関心を別のテーマに向けて、「局面転換」を図ってきた。それこそが、7年半も続く長期政権の秘訣だった。
さて、今度も「毎度の手口」が通用するのかどうか。コロナの感染拡大を抑えるために、禁止されてきた自民党議員の地元入りが、国会閉幕後の6月19日から解禁される。地元の支持者を回ることで、自民党議員の一人ひとりが、局面転換が成功か否かを実感することになる。
一瞬先は闇という言葉があるが、その通りになった。G7サミットはドイツのメルケル首相が「渡米しない」意向を示したことが理由かどうかは不明だが、9月まで延期されることになった。6月下旬のワシントン近郊の開催を好機到来と捉えた安倍首相の思惑は弾け飛んだ。
(文=編集部)