2019年12月1日から、自動車の運転中に携帯電話やスマートフォンを使用する“ながら運転”に対する罰則が強化された。反則金の額と減点点数が釣り上がり、事故を起こした場合は「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」の罰則が科せられ、免許停止となる。スマホの使用(保持・通話)だけでなく、カーナビも含め、画面を2秒以上注視する行為も罰則の対象となる。
地図アプリのルート案内を利用したり、音楽を再生したりと、運転中も何かと出番の多いスマホだが、罰則を受けない範囲で安全に使うには、どうすればいいのだろうか。ドライビングインストラクターとしての活動経験もあるモータージャーナリストの菰田潔氏に聞いた。
赤信号で停止中のスマホ利用は違反?
「ながら運転」という響きから、赤信号での停止中は車が動いていないからスマホを使用してもセーフなのではないかと思ってしまう。しかし、「赤信号で停止中の使用も罰則の対象になると心得ておくべき」と菰田氏は警鐘を鳴らす。
「車が止まっているとはいえ、エンジンがかかっていて、いつでも走りだせる状態なので“運転中”であるといえます。わかりやすい例を挙げれば、道路交通法第52条では夜間運転中は前照灯をつけることが義務づけられていますが、夜間の信号待ち中に前照灯を消してしまったら、周りの車から自分の車が見えなくなり、危険ですよね。これと同じ理由で、赤信号で停止中のスマホの操作は違反になると思っておいたほうがいいです」(菰田氏)
スマホも含む携帯電話使用等の取り締まり件数は18年に84万2199件(警察庁「携帯電話使用等の取締り状況<送致・告知件数>」より)と、多くの人が検挙されている。
また、警察庁「携帯電話使用等に係る使用状況別交通事故件数の推移」によれば、事故件数は08年が1299件だったのに対し、17年には2832件と膨れ上がっている。今回の罰則強化も、背景には、ながら運転の弊害が無視できないレベルにまで深刻化しているという事情がある。
「信号待ち中のほんの数秒感、スマホを注視している間に小さな子どもが車の前に来ているかもしれないし、後方から自転車がすり抜けてくるかもしれない。そうした周囲の変化に気づけないまま青信号になって急発進すれば、事故を招きかねません。法律的にセーフかアウトかを論じる前に、安全運転の基本に立ち返って考えたほうが賢明です」(同)
カーナビやスマホの画面注視は超危険行為
冒頭でも触れたが、運転中にスマホやカーナビの画面を2秒以上注視することは違反となる。国産メーカーのカーナビの場合、走行中にできる操作は画面のスクロールや拡大縮小といった単純なものに限られている。単純な操作なら、ボタンの位置さえ把握しておけば、視界は前方に向けつつ、横目でチラチラ見ながら操作したり、ルートの矢印を確認したりすることは可能だろう。
しかし、複雑な操作となると話は別だ。スマホのナビに目的地を打ち込んだり、SNSのメッセージを読んだりするだけでも2秒は超えてしまう。では、この「走行中に画面を2秒注視する」という行為はどういった意味を持つのか。
「時速100kmで走行時、2秒間でクルマが約56m進みます。時速50kmなら、その半分の28m。いずれにしてもけっこうな距離で、その間に車線変更してくる車が現れるかもしれません。画面を注視している間は視野がグッと狭まるので、横目で周りが見えているつもりでも、実際は両目を閉じているのと同じくらい危険な行為といえます。もしカーナビの画面を注視しなければならないほどルートに不安があるなら、路肩に停めて落ち着いた状態で確認すべきです」(同)
運転中にスマホを保持して通話することも罰則の対象となるが、近年はハンズフリー通話用のイヤホンや、ハンドルの電話マークを押せばスピーカーから相手の声が聞こえてきて通話できる車種も珍しくない。運転中の通話については、各都道府県条例によって規制が異なるという。車のホーンなど周囲の音が聞き取れることを前提とし、片耳だけのイヤホンはOKというケースもあれば、通話は全面的にアウトというケースもある。
「周囲の音が聞こえるかどうかという問題もありますが、通話によって注意力散漫になってしまうのが最大の問題です。ハンズフリー通話がOKだとしたら、『もうすぐ着くよ』程度の単純な会話だったらいいのですが、仕事の複雑な話を考え込みながら話していると、前が見えなくなってしまう。運転中に得る情報の97.8%は視覚からです。よって、画面注視にしても通話にしても、『周りを見る』という、運転における重要な作業を妨げるような行為は慎みましょう」(同)
カーナビの音声案内機能や車のハンズフリー通話機能といった機器の進歩や、ながら運転の違法性の周知に伴ってか、携帯電話使用等の取り締まり件数自体は減少傾向にある。その一方で、携帯電話使用等の交通事故件数は、08年から17年まで右肩上がりだ。18年はやや件数を落とし2790件だが、死亡事故については過去6年間でもっとも多い42件だった(前述、警察庁調べ)。
この数字にこそ、機器の利便性を過信するドライバーの甘えが反映されているのかもしれない。今一度、運転に対する姿勢を正すときだろう。
(文=松嶋千春/清談社)
●「日本自動車ジャーナリスト協会 菰田潔氏」
自動車レース、タイヤテストドライバーを経て、1984年からフリーランスのモータージャーナリストになる。クルマが好きというより運転することが好きでこの仕事をしている。