就職も「結束の固い三田会を擁する慶応のほうが強い」(元経済誌編集長)という見方もあるが、実は慶応をひとくくりにできないのが学部格差、さらに言えば“学部差別”である。昨年のロンドン五輪の男子水泳メダリストに慶応在学生である立石諒がいたが、所属がSFC(湘南藤沢キャンパス)の環境情報学部だったため、「SFCは慶応じゃないというのが“学内の世論”だから、三田でも日吉でも応援する雰囲気はなかったですね」と経済学部4年の男子学生は話す。
この男子学生によると、学内ではこんな実態があるという。
「SFCは“パソコンは人格”と称してノートパソコンやiPadを携帯するのが当たり前のようですが、ITの専門学校みたいで……。日吉の授業では『向こう(SFC)の学校では教わらないでしょうけど』と、SFCをバカにした発言をする教授もいますよ。すると、学生は一同爆笑。慶応の付属高校出身者でSFCに入る学生を、彼らは“飛ばされた”とか“左遷された”と言っています」
SFC在籍の学生に対しても、格下扱いする風潮が根強いという。
「なんでもかんでも新しモノ好きで、時代のトップをいっていると勘違いしている連中が多いですね。在学中に起業したり、株をやったりすることがカッコイイと思っているんでしょう。SFCの連中がFacebookやツイッターを立ち上げると、日吉生や三田生は『自己ブランディングした』と笑っていますけどね。慶応って、基本コンサバですから、SFCは体質に合わないんです」(同学生)
法学部4年の女子学生も「現役慶応生の芸能人って大体がSFCですし、就職先にITベンチャーが多いのも、格下に扱われる理由かもしれませんね。総合政策学部とか環境情報学部とか、目新しさをウリにしてリベラルだと言いたいのでしょうけど、要するに全体的に軽量級なんです。それに、昔からSFCって、他学部が本命の受験生にとって滑り止めの学部なんです(笑)」と手厳しい見方をする。
このように言われ放題のSFCだが、SFC在籍の学生の反論も聞いてみよう。
「起業したり、株やファンドで金儲けに走っている奴らは結構います。日吉生や三田生からバカにされているのも、入学前から知っていますよ。実際、彼らより読書量は明らかに少ないでしょう(笑)。でも、日吉生や三田生だって商学部を“バカ商”って見下しているし、どっちもどっちじゃないですか」(総合政策学部4年の男子)
ビジネスでも見栄を丸出し?
こうした学部間の序列意識など「法学部卒に引け目を感じる意識は抜けない」(文学部OB)という東京大学を除けば、卒業後にはやがて雲散霧消してしまうものだが、慶応の場合はどうだろうか。
地方銀行の幹部は次のように語る。
「地域の経済界の会合などで学生時代の話をすれば、ごく自然に出身大学に話題が及ぶでしょう? それを計算しているのだと思いますけど、学生時代の話を仕向けてくるのは圧倒的に慶応出身者が多い。学部に関係なく(笑)。母校への愛着じゃなくて、ただの見栄ですね」
ある経営コンサルタントは、ITバブル期を回想して苦笑いする。
「一攫千金を狙って金絡みの事件に関わる経営者には、慶応出身が目につきました。製造業で地道にコツコツやって成功している慶応OBももちろん多いので、人それぞれと言ってしまえばそれまでですが、派手好きが多いですね。派手好きのお決まりのパタ—ンとして、良からぬ輩や闇の勢力と接点をもつようになって、つけ狙われたのでしょう」
学内におけるSFCへの格差意識も、新興の学部に対する見栄っ張りの表れともいえるだろう。多くの大学カラーはとうの昔に均一化してしまったように見えても、慶応の見栄っ張りカラーは厳然と受け継がれているようだ。しかし、それは慶応の魅力でもあり、強さの源泉といえるのかもしれない。
(文=編集部)