狡猾すぎるイギリス、EU離脱でも「世界の金融センター」の地位揺るがず強気…EU各国は分断の危機
本連載では前回、前々回とドイツ銀行の信用不安およびヨーロッパの銀行が抱える構造的な問題について見てきたが、ヨーロッパは政治的にも大きな転換点を迎えている。
それは、左派の衰退だ。かねてからヨーロッパを揺るがす移民問題によって、ヨーロッパ各国ではナショナリズムが高まると同時に反グローバリズムの動きが強まっている。そして、その流れにイギリスのEU(ヨーロッパ連合)離脱決定が拍車をかけたかたちだ。
ドイツでは「ドイツのための選択肢」、フランスでは「国民戦線」と、共に「極右」と呼ばれる政党が躍進を遂げている。また、イタリアでも、反EUを掲げる「五つ星運動」が台頭しており、6月のローマ市長選挙では同党のビルジニア・ラッジ氏が当選した。
特に、もともと社会主義色が強いフランスでは、2017年4~5月に行われる大統領選挙に現職のフランソワ・オランド大統領(社会党)が出馬しても敗戦が濃厚といわれており、新大統領にはアラン・ジュペ元首相やニコラ・サルコジ前大統領、さらに国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首の名前も取り沙汰されている。
国益主義色が強い政党の台頭は、ヨーロッパ各国の対立激化を意味すると同時に、EUやユーロというシステムの瓦解を促進することにもつながるだろう。
以前の記事で「貧しい国が豊かになると戦争が起き、豊かな国が貧しくなると内乱が起きる」と指摘したが、今ヨーロッパで起きていることは、その実例といえる。
シティの命運を握るシングル・パスポート
17年はフランスの大統領選に加え、ドイツとオランダで議会選挙が予定されており、ヨーロッパは選挙イヤーだ。いずれも、EUやユーロに不満を示す政党が躍進すると見られているが、注目したいのは今後EUとイギリスの関係がどのようになるかである。
6月の“ブレグジット”によって混乱が起きるかと思われていたイギリスだが、当初の予定を前倒しするかたちで7月にはテリーザ・メイ内閣が発足、メイ首相は17年3月末までにEU離脱を通告することを表明するなど、着々と離脱に向けて動き始めている。
離脱の交渉で一番の焦点になるのが、金融機関の「シングル・パスポート制度」だ。これは、銀行がEU内のどこかの国で免許を取得すれば、EU内のほかの国でも営業ができる制度である。これは、ロンドンのシティが世界の金融センターとして機能する上で非常に大きな強みになっていた。
『欧州壊滅 世界急変:「英EU離脱」で始まる金融大破局の連鎖』 2016年6月24日、国民投票による英国のEU離脱決定で大揺れとなる世界経済。欧州解体の行方、今後の日本、中国、米国への影響と金融恐慌の可能性は。ブレクジット・ショックの世界を完全分析!