名門として知られる京都府立医科大学が揺れている。
京都府警は2月14日、暴力団幹部の刑の執行停止をめぐり、同大学病院の医師が虚偽の診断書を作成した疑いがあるとして、虚偽有印公文書作成容疑などで同病院を家宅捜索した。捜索場所は院内だけでなく、学長室や病院長室、さらにはそれぞれの自宅と広範囲に及んだ。
暴力団幹部との交際が噂される吉川敏一学長は当初、疑惑を完全否定し、大学側の辞職勧告にも徹底抗戦の構えを見せていた。しかし、「私には大学の名誉を守る責務がある」と訴えた記者会見からわずか2日後の3月2日に退職を発表した。名門医大で、いったい何が起きているのか。
不祥事連発の京府医大、組織ぐるみの虚偽記載か
問題の発端は、2014年7月に同病院で腎臓移植の手術を受けた指定暴力団山口組淡海一家の総長・高山義友希(たかやま・よしゆき)受刑者が収監されるにあたり、医師が「収監に耐えられない健康状態にある」との診断書を作成、検察側に提出したことにある。
担当医は昨年、京都府警の任意の事情聴取に「院長からの指示で虚偽の書類を書いた」と供述したとされ、組織ぐるみの虚偽記載があったのでは、という疑惑が生じている。
会見で吉村了勇病院長は「虚偽記載は一切ない」と否定したが、吉川学長と高山受刑者が大学の外で飲食する姿が複数回目撃され、腎移植手術の際には専門外にもかかわらず吉川学長が立ち会ったといわれており、きわめて異例の対応を取っていたことが明らかになっている。吉川学長と高山受刑者を取り次いだのは、京都府警の元警察官だったことも判明した。
京府医大は京都大学や大阪大学の医学部よりも古い歴史を持ち、医師を派遣する関連病院は120以上あるなど関西医療界の重鎮だ。しかし、近年は不祥事が相次いでいる。
16年には、全国的に発覚した精神保健指定医の不正取得で89人が指定取り消しとなった問題で、同医大では全国最多の8人が対象となった。全国で唯一、精神科のトップである主任教授も対象となるなど、科ぐるみの不正だったことが明らかになっている。指定医は患者の身体拘束を判断するなど強い権限を持つ国家資格で、近く不正にかかわった医師らの医師資格の停止処分も決まる。大学病院のみならず、関連病院も含めて、地域医療にとって大きなダメージとなる。
製薬会社のノバルティスファーマ元社員が関与したとされる降圧剤論文不正事件では同医大の臨床試験が捜査対象になり、東京地方裁判所での公判では関係者が証人として出廷する事態になっている。検察側は、法律違反を犯した被告は元社員のみで研究者はだまされだけの被害者、との構図を描く。
だが、松原弘明元教授(13年に退職)は「専門分野ではないので、元社員に言われるままに論文をつくった」、元講師は「教授が怖くて逆らえなかった」、医局員は「教授の歓心を買うために自発的に虚偽報告をした」と証言するなど、無責任な言動が多数飛び出し、医療界をあきれさせた。