最近、韓国の対北朝鮮政策を見ていると、よく理解できない状況になっている。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、これまでの政治との決別など革新的な取り組みを主張してきた。そのなかでも注目されるのが、北朝鮮との対話政策だ。文大統領は、北朝鮮の度重なるミサイル発射などの軍事的挑発にもかかわらず、北朝鮮との融和を重視している。しかし、北朝鮮は文政権の呼びかけに、一切の反応を示していない。文政権が提案した軍当局者会談に関しても、北朝鮮は回答を示していない。それにもかかわらず、韓国は対話の意欲を示し、南北の融和を呼びかけている。
話をする気のない相手に対話を呼びかけることが、事態の改善につながるとは考えづらい。端的に言い表せば、それは矛盾だ。韓国には中国との関係の維持・強化を目的に、北朝鮮に対して強硬な姿勢を取りづらいという実情もあるのだろう。
重要なことは、長い目で考えたとき、現在の北朝鮮政策が韓国の国力強化につながるか否かだ。韓国経済が中国への依存度を高めてきたことも考えると、文政権の北朝鮮政策が短期間で修正されるとは考えづらい。朝鮮半島情勢の混迷が長期化するリスクは高まっているとみるべきだろう。
戦略なき韓国の対北朝鮮政策
革新系の政治家として、文大統領は財閥企業と政治の癒着を断ち切ること、国内経済の底上げ、北朝鮮との融和などを主張してきた。そうした主張によって同氏は、前政権下での政治スキャンダルや、財閥企業が経済を牛耳るなかで経済格差の拡大に直面してきた韓国の有権者の不満を、うまく集めることはできたといえる。
問題は、こうした主張が韓国の成長戦略といえるかどうかだろう。その最たる例が、文政権の対北朝鮮政策だ。対話の呼びかけにもかかわらず、北朝鮮は核開発やミサイル開発を進めている。北朝鮮にとって重要なことは、韓国との関係ではない。米国に対して核の脅威などを突き付け、経済制裁の解除など北朝鮮にとって有利な条件を引き出すことが重視されている。突き詰めていえば、韓国の動きは関心の対象外ということだろう。
本来であれば、韓国は国際社会との連携を強化して北朝鮮に圧力をかけるべきだろう。中国やロシアからの圧力にも接している韓国が自らの声で北朝鮮の脅威を国際社会に訴え、毅然とした行動を求める意義は大きい。
韓国は安全保障面では米国との関係を基礎とし、日本をはじめとする主要国との連携強化を目指すべきだ。それが、中国やロシアにも、北朝鮮に対する一段の踏み込んだ対応を促すことにつながる可能性がある。最終的に、国際社会からの締め付けをきつくすることが、北朝鮮の自覚と自制を促し、朝鮮半島情勢の安定につながると考えられる。