1月18日通常国会開会日に立憲民主党の蓮舫代表代行が議会の慣例を逸脱し、総理の施政方針演説原稿の一部画像を事前にTwitterに投稿しました。
こうした演説原稿は事前に与野党のほか、官邸記者クラブの大手マスコミにも知らされていますが、それは事前に質疑を作成したり、マスコミが記事発表したりするための準備のためであるものの、その原稿は本会議場で読み上げられて初めて、正式な発言と記録されるわけです。蓮舫代表代行が取った行為は明らかな国会軽視の大顰蹙行為で、与党のみならず身内の立憲民主党内からも批判の声が上がっているにも関わらず、ツイート削除で何事も無かったことのようにいけしゃあしゃあとしておられ、代わりに党が謝罪をするというまったくもって日本人の品格、所作として良い大人の取る行動ではないでしょう。
いくら多重国籍問題をも明白にしていないとはいえ、まがりなりにも日本国の国会議員である以上は、こういう事ぐらいは日本人としての良識をもって対応をするべきではないでしょうか?
このニュースで「へえ……演説原稿って事前に知らされるのか」と思われた方もおられるかと思いますので、今回は国会や地方議会の会議運営についてお話しします。
議会の4つの権利と原則
本会議によって議決されたことは議会の最終意思決定ですから、本会議は大変権威ある機関でもあるのですが、そんな本会議のイメージは近くの議員と会話したり、居眠りしたり、携帯をいじったり、採決をすれば牛歩戦術などと、およそ不真面目に見える事ばかりが思い起こされるでしょう。
こうなってしまう理由は、本会議が実は「決められたシナリオを消化する場」となっているからと言っても過言ではないと思います。
本会議は会社の会議などと違い、自由に発言し議論ができる場ではありません。
本会議で行われるのは先に述べた総理や首長による施政方針演説や各会派代表質問、一般質問が行われ、議案などは委員会へ付託されます。
その「委員会」で付託された議案や陳情、請願について自由闊達な議論が行われます。
委員会には常任委員会、特別委員会と議院(議会)運営委員会があります。
国会の議院運営委員会、議会運営委員会は議会を円滑に運営するために、会派の代表者が集まり、議会の運営に関する事項を協議する委員会で、地方議会では条例に基づき設置され、省略して「議運」と呼ばれます。
議運では本会議の日程、議題、発言者、時間、採決方法など本会議の運営に関する協議を行い、委員会や調査会を設置します。
委員会では自由な議論が交わされると書きましたが、それもバズセッションやブレインストーミングのようなフリートークが出来る場ではなく、会議の作法に則って行われます。
それは「ロバートルール(ロバート議事法)」と呼ばれるもので、アメリカ議会規則を元に作られた議事進行規則で世界中の多くの議会はこれに近い法則で進行され、日本では、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、日本青年会議所などでも採用されています。
会議というのは、なかなかまとまりにくいものですが、それを初対面の者同士でも円滑に議事が進められるようにしたもので、4つの権利と4つの原則で成り立っています。
4つの権利は、多数者の権利・少数者の権利・個人の権利・不在者の権利の次の4つを指します。
〇多数者の権利とは多数の者の意見を優先する表決の基本原則である多数決の事。
〇少数者の権利とは少数意見をも尊重し議題として取り上げ議論する事。
〇個人の権利とは議題に関係ないプライバシーに関わる件には触れないという事。
〇不在者の権利とは会議に参加出来ぬ人にも不在者投票や委任状という手段で議決権を与える事。
4つの原則は、一時一件の原則・一時不再議の原則・多数決の原則・定足数の原則の4つを指します。具体的には、以下のように説明できます。
〇一時一件の原則とは議論の錯綜を防ぐために物事はひとつずつ検討、決定する事。
〇一時不再議の原則とは一度決定した議題を掘り起こして再導入してはならない事。
〇多数決の原則とは多数決によって決議しなければならないという事。
〇定足数の原則とは会議の開催や決議には投票権を持つ構成員が定められた出席率が必要であるという事。
動議と議運とは?
さらに、この権利と原則を補完するために「動議」があります。
動議とは意志決定を求める提案を、審議の対象とするために会議に持ち込む事で、提出した動議が正式に審議の対象となれば、それまでの議題はその時点で一時中断され、会議はこの新議題を審議または採決する義務が生じます。
動議により会議構成者を拘束する権利を持つため、濫用は会議を中断し進行を妨げる事になりますので、慎重に取り扱われます。動議の目的は、会議体が、ある提案に賛成か反対かを知ることにあります。
議運により、会議の日程や発言者、会議の時間などはあらかじめ決められています。しかし提出された議題が長引きそうになった場合に会議時間の延長の動議や休憩の動議が提出されれば、議長はその動議について諮り、会議時間の延長や休憩を行うかの採決を取り、会議の進行を決めていきます。
とはいうものの、実際はその動議の提出すら議運で決められていることがほとんどです。
多数決が優先されることはわかりやすいですが、少数者の権利というのは耳慣れないかもしれません。議会では「会派」を形成します。国会では院内の構成単位となり国会議員2人以上で結成出来ますが、地方議会では1人でも会派を結成できるところもあります。
理念や政策を共にする議員が院内会派を作り、議会活動を共に行います。会派の所属議員数によって、委員会の議席数や、発言・質問の時間配分、法案提出権などが左右されるために、政党とは違ったメンバーで構成されることもあります。
無所属で当選した人が政党会派に参加したり、無所属同士で便宜的に会派を結成したりすることもあります。人数要件(通常国会では5名以上、臨時国会と特別国会では10名以上)を満たせば、院内交渉団体になり、議院運営委員会に理事を出せます。
会派の構成人数により、議題提出しても多数決を得られない事がわかっている場合、会議延長動議を使い延長期間内に新たな説得材料を用意し、少数派の意見が多数派になるよう働きかける権利が保証されているということです。
ただし延長動議を発したとしても実際に延長するかどうかは多数決で決まりますから安易ではありません。
また、多数決で決定したとはいえ、全会一致で決まったこと以外は少数意見を有する者は採決の時点で自身の意見を放棄する事となりますので、少数意見を有する者には意見を留保させることで、同調圧力で従わせたのではなく少数派も発言できる場であった証明となります。
採決後、日本共産党などは「決議された第〇〇号議案について、日本共産党は少数意見を留保します」というような発言をして「多数決で決定はしたものの、その議案には反対する立場であった」という意思表明を明確にして、後援者や支持者に対しても政策を発言できる場で自論を発言したけれども採決で敗れたこと、また自分達は採決後も「反対派」であるという立場を誇示できます。
そういう意味では、共産党という政党は自己の主張に信念を持って行動していると言えます。
放っておけば収拾のつかなくなる会議体を事前に議案の数やそれらを審議する委員会の差配やその時間、質疑応答者、採決への段取り等を熟慮し会議日程や開催時間の綿密な計画を立てるのが議運の仕事。本会議での総理の施政方針演説や各会派の代表質問も事前に知らされるのはそれらに対しての質疑などの作成を事前に用意し滞りなく議事進行を行うためであって、蓮舫議員が行ったように知りえた原稿をTwitterにリークするためでは決してないのです。
昔の政治家はヤジも巧みで「議会の華」とも言われていた
一方で、本会議での代表質問などは質問者の話す内容も事前にわかっている状態で、それに対する閣僚答弁も予測のうちともなれば、他の議員達は会議の体を整えるためだけに本会議場に出席していなければならないわけで、居眠りや雑談が多くなるのもそういう事情が背景にあるからなのです。
そのような空気の中では質問者もやりにくく、そこで質問に対して合いの手になるような掛け声をかける「ヤジ」がある事によって、話すかたも聞くかたもその場が活性化しヤジは「議会の華」とも言われていました。
昔の議員はヤジの上手い方が多く、「質問者の発言語句に不必要にかぶせない。」「個人のプライバシーに深く入り込むような下卑た発言は行わない。」など言葉尻を捉えるシニカルなものが多く、質問者の方もヤジを期待して煽るような原稿づくりに勤しむ議員達も多くいたのですが、段々と機転融通の利かない議員が増え一般国民からも「下品じゃないか?」との声も上がるようになり、昔ほど活発に飛び交わぬようになってきています。
国会軽視の通夜パフォーマンス「牛歩戦術」
もう一つ本会議名物と言えば牛歩戦術があります。国会では1/5以上の議員から要求があると記名投票を行わなければならないとなっているため、その際は一人ずつ演壇上の投票箱に投票します。その際にゆっくりと牛の歩みのように進み投票を遅らせる事から「牛歩戦術」と呼ばれています。
長い時間静止したり、後退をしたりすると棄権とみなされてしまうので、小刻みに歩を進めたり、肩を左右にふったりするなどして少しずつ前進していきます。牛歩は野党が与党の採決を不成立にさせたいために行われます。議会には決まりとして採決を行うときは議長が「議場閉鎖」を発することにより、採決が終わるまで外から議場に入れなくなるという規則があります。党議拘束に従いたくない議員や少数派の会派の議員が多数決への抵抗として議場を退出するも例もあります。
これはこれで議決権の放棄と言えますし、議員として職務怠慢といえます。
ともあれ、出る事はできても投票終了まで議場に戻る事ができないわけで、本来であれば議長が議案の採決を諮った時に「異議なしの声多数と認め……」「拍手多数……」「挙手が過半数を超えたと認め……」というような簡略的な多数決で決定する場面であったものを記名投票に変更され牛歩をされることにより、順番を待つ賛成議員が便意を生じた時にもトイレに行くために議場を出れば賛成票が減ることから出るに出られなくなり、悶絶する議員の姿を見たこともあります。生理現象に訴えるこのやり方は決してスマートとは呼べないでしょう。
次に、日付が変わる午前0時を超えた時点で終了していない投票は無効になるという規則がありますので、牛歩により議題可決を先延ばしにできます。
法案や条例案は会期中に可決するか継続審議の手続きを踏まねば廃案となります。この継続審議の可否も採決で決めるわけですから、会期末まで牛歩を行われると廃案になるわけです。
また、野党が牛歩を行う場合は審議不十分で強行採決をされるのでは納得がいかないからという大義があり、強行採決を行った議長不信任案や委員長解任決議案、内閣不信任決議案、担当閣僚問責決議案などを動議として提出します。これらは重要性が高い先決議案となりますので、審議になっていた議案より優先して採決を行うために会議日程の時間を消費することになります。
審議不十分な強行採決も決して褒められるものではありませんが、多数決の原則からすれば少数派の権利の範囲を大きく逸脱したテクニックと言えるかもしれません。ましてや2015年9月18日に参議院で安倍首相問責決議案が提出され生活の党共同代表(当時)の山本太郎が黒のスーツに黒ネクタイ数珠を手にして略喪服姿でひとり牛歩を行い閣僚席の安倍晋三総理(当時)に向かい焼香と拝むしぐさなどは、その前日に「自民党が死んだ日」と賞状用紙に書きなぐり掲げた事からも、意図的かつ死を悼む精神を踏みにじり、国会軽視の「通夜パフォーマンス」と非難されたのも当然です。
審議拒否に伴う国会の空転、1日3億円が失われる
議員として議員同士で議論を闘わせるための範疇を逸脱したパフォーマンスとしては、委員会質問においてのフリップがあります。
委員側が閣僚に対し自らの質問意図や背景を説明するための資料としてフリップを使用するのはわかります。しかしこのフリップの向いている方向は閣僚席ではなくTVカメラ。
委員会中継を見る視聴者に向けていることが適切なのでしょうか?確かに、政策を国民に分かりやすく説明する事は政治家、政党に必要な事ですが、それは議論をする場で中継されている事を利用して行うべきものなのでしょうか?
委員会や国会中継というのは、あくまで国民が普段の審議の場面を見るために必要なものですが、見られているからそれに合わせた議論をするというのは本末転倒のパフォーマンスと言っても過言ではないでしょう。
2月15日の予算委員会では、総務省接待問題に立憲民主党委員の質問に「事実関係を精査している」としか答弁が得られなかったことに対して、委員長席の金田勝年委員長に野党筆頭理事の辻元清美議員が「手荒な事はしないから止めて」と時計を止めて議事整理するよう求める場面がありました。
手荒な事とは審議拒否の為の退室で、予算を日程内に衆議院を通過させたい与党に対しての脅しでしかないわけです。
さらに、質問内容も最近多い台詞として「明日発売の週刊〇〇の記事によりますと……」というような内容が目立ち、週刊誌記事を補完するようなものばかりです。「野党が委員会で週刊誌の宣伝を行っている」とか「週刊誌と取引がある」と揶揄されても仕方ないでしょう。
週刊誌の内容を徹底的に究明するのが義務というのであれば、菅直人元総理の「一夜は共にしたが男女関係はない」という言葉でお茶を濁した愛人報道や、韓国人ホステスとの間に隠し子があり、その韓国人ホステスは国家情報院に属していたとか、行きつけのその韓国クラブは北朝鮮系の経営者に変わっているとかなどの「日本の国益を損なう」可能性のある事態の究明をしっかりと行うべきです。
国家安全保障の点からも真偽を追求し、本人も国民や同盟国に対し潔白を証明せねばならぬのは「菅総理」ではなく「菅元総理」ではないでしょうか。。
審議拒否とは、つまり決めていた日程が空転することを意味します。国会開催にかかる費用は一日約3億円と言われます。これは、国会にかかる全ての予算、衆参両院、国会図書館などの設備維持、人件費、雑費、議員や公設秘書の歳費、給与の年間予算額を365日で割って算出した額です。
空転させたことによって、3億円をドブに捨てているのと同じことのわけすから、審議拒否などという手段を当然だとばかりに訴えることは控えてほしいものです。
(文=新日本帝國/政治・社会ジャーナリスト)