自民党が3月21日に開く党大会で採択する今年の運動方針に、労働組合との連携に関する文言が盛り込まれる見通しだ。昨年の運動方針にも「労働組合との関係強化」があったが、今年は衆議院の解散総選挙が必ず行われる年だけに、労組に秋波を送って、野党の分断工作を一層進めたいようなのだ。
運動方針には「友好的な労組との政策懇談を進める」と明記され、賃金引き上げや働き方改革などの政策が掲げられる。起草委員長の小野寺五典組織運動本部長は、3月9日の会見で「国にとって重要な政策を知るためには、労組との関係をつくることも大事だ」と話した。
自民党が労組の取り込みを加速させているのは、昨年の国民民主党の分裂劇も影響している。昨年9月、国民民主党が「分党」し、大半の議員が立憲民主党と合流したものの、22人が不参加で、玉木雄一郎代表ら15人は国民民主党に「残留」した。
両党の支持団体の連合の神津里季生会長が、「ひとつの大きな塊として、政党合流が進むことを切望する」として、国民民主の全員参加を訴えていたにもかかわらず、これに真っ先に反旗を翻したのは連合傘下の6労組だった。産業別労働組合のうち、「UAゼンセン」「自動車総連」「電機連合」「JAM」「基幹労連」「電力総連」という有力民間労組が反対したのだ。
「組織内候補に同調を促すかのように、6産別は先駆けて立憲民主との合流への不参加を表明した。神津会長は完全に顔を潰されました。合流新党の綱領に『原発ゼロ』が記載されていたことに猛反発したことが大きいですが、立憲民主が共産党との野党共闘に動いていることも6産別としては絶対に許せなかったようです。6産別はむしろ自民党に親近感を抱いているほどですから」(野党議員)
興味深い調査結果がある。2016年のことだが、6産別のひとつの「基幹労連」がアンケートで組合員に支持政党を聞いたところ、自民党支持が当時の民進党支持を初めて上回ったというのだ。基幹労連は鉄鋼や造船重機などが加盟する組合。すでに5年前に空気は変わっていた。
昨年11月には、トヨタ自動車や系列のグループ各社でつくる「全トヨタ労働組合連合会」が、これまでのような野党オンリーではなく、与党との政策協議の場を設ける検討に乗り出したというニュースが報じられ、関係者に衝撃が走った。自民党の運動方針は、そうした連合傘下の民間労組の“野党離れ”に敏感に反応したものだろう。
最近もさらに労組の野党離れが進みそうな事態が起きている。4月25日に実施される参院選長野選挙区の補欠選挙をめぐって、国民民主が野党共闘に難色を示しているのだ。立憲民主の羽田雄一郎参院議員の死去に伴う選挙で、羽田氏の実弟の次郎氏が野党統一候補として出馬する予定だが、羽田氏が先に長野県の立憲民主、共産党、社民党の地方組織などと結んだ政策協定の内容について、国民民主や連合の一部が反発、推薦の見直しもあり得るという騒ぎに発展している。
自民党関係者はほくそ笑む。
「国民民主は国会でも『政策提案政党』を目指していて、なんでも反対の立憲民主とは違う。自民党は安倍前政権の時代から、玉木代表の国民民主が補完勢力になり得ると睨んできた。次期衆院選に向けて、我々の狙い通りに進んでいる」
野党分断とセットで、連合の分裂も現実になるかもしれない。
(文=編集部)