東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京五輪)のボランティア参加者の実情が明らかになった。新型コロナウイルス感染症の影響や東京五輪組織委員会の森喜朗前会長による“女性発言”などで、辞退者の増加の可能性が指摘される中、宮城県の地元紙・河北新報オンラインは16日、記事『宮城の五輪ボランティア600人辞退か 不足の恐れ、計画修正も』を公開した。記事によると、同県が確保した約1700人の都市ボランティアのうち、約600人が「感染の不安などから参加しない恐れがあることがわかった」というのだ。
同県内では、政府や組織委が掲げる「復興五輪」の理念のもと、宮城スタジアム(利府町)で準々決勝などサッカー計10試合が開催されることになっている。都市ボランティアは会場での観客誘導、海外観光客の案内などを行う計画という。
記事によると「県は4月9日に始めるボランティア向け研修会の参加者を把握するため、今年1月以降、10~80代の1708人を対象にインターネットなどで意向を聞いた。今月15日時点で『参加できる』は1122人(65・7%)で、『参加できない』は369人(21・6%)。217人(12・7%)は回答がない」という。
回答がなかった217人を「不参加」と見込んで計586人と算出し、「現時点で、参加者は県が運営できる最低限のラインと想定する1100人とほぼ同水準となる」とした。また県のコメントを次のように伝えている。
「感染が拡大すれば辞退者はさらに増える。2人で当たる業務を1人に変更するなどの工夫が必要だ」
海外からの観客を入れないのに当初計画通りの人数は必要か?
前出の記事に関し16日夕、Twitter上では「個人の負担を増やして、『頑張りに期待する』」「スターリングラードの『銃は二人に一丁だ!』を連想してしまいますね」などとボランティア参加予定者の負担増加を懸念する声や、「海外客も来ないのに観光案内が必要?」「海外客来ない方針だから足りなくならないのでは」などとボランティアの定員に対する疑問などが見られた。
確かに報道各社は今月上旬、『東京五輪、海外一般客の受け入れ断念へ 日本側が方針』(朝日新聞3月9日)、『五輪、海外客の受け入れ断念 スポンサー枠は観戦検討―政府』(時事通信3月10日)などと報じ、国際オリンピック委員会(IOC)や五輪組織委が海外からの一般客の入国を制限する方針であることを明らかにした。
では、実際に参加するボランティアの仕事量はどうなるのか。また組織委による海外客の受け入れ制限方針の決定など、新しい動向に関して、地元自治体はどのように考えているのだろうか。
試合会場の想定観客数が不明→ボランティアの充足数も不明に
宮城県オリンピック・パラリンピック大会推進課の担当者は次のように語る。
「まず、宮城県の都市ボランティアは当初計画として1300人の定員で募集をし、約2000人の応募がありました。その後、2019年にボランティア参加者に義務化されている1回目の共通研修会を開き、それに来ていただいたのが約1700人でした。報道されている記事で語られている母数の『1700人』とはこの方々を指しています。
今回はこの1700人の方に2回目の『役割別の研修』を受けていただくために、『研修を受けていただけますか』とお聞きしました。記事は『研修を受ける』イコール『ボランティア活動をする』ということで解釈されているのだと思います。
『この数で足りるかどうか』に関しては、一概に今、判断するのは難しい状態です。
まず外国からのお客さんが来ない可能性が高いということと、各試合の観客数を当初計画通りフルで想定すればいいのか、もしくはソーシャルディスタンスなどの観点を踏まえて50%で設定するのか、はたまた70%にするのか、まったくわからないからです。ただ、競技が開催される地元の自治体として、(編集部注:五輪組織委などから特段の指示がない限り)観客がフルに入った時の準備をしなければなりません。
河北新報社さんには、観客の入場制限なしで運営するためには1100人ぐらいでギリギリのラインではないかというお話をしました。さきほどお話した通り、当初計画ではフルにお客さんが入った状態で1300人のボランティアが必要と考えていました。そこから200人減っているので、3人で活動していただく部署を2人に、2人のところを1人にするしかないという可能性があるということです。
またボランティアは活動期間3日で募集していたのですが、『4日動けますよ』という方には4日活動していただくとか、工夫をしてなんとか人数が減っても回せるように考えているところです。
ちなみに欠員分の追加募集をすると五輪の規則で研修をもう一回受けていただく必要が生じます。つまり、また最初から研修を用意しなくてはいけなくなってしまうのです。(編集部注:研修会場の確保や追加募集の労力を考えると)そこは避けたいです。
ボランティアをお願いするために、ボランティアをお願いすることになってしまう。そのため、再募集は厳しい状況です。『研修会に参加するかわからない』という方も含めて、アクセスをかけてできるだけ人数を減らさないようにお願いするというのが我々のスタンスです」
開会式まで間もなく4カ月を切ろうとしているが、IOCや五輪組織委の方針は具体性を欠いたままだ。五輪に関係する多くの人々が宙ぶらりんのまま、貴重な時間だけが過ぎ去っていく。コロナ感染症防止に関する明確な説明もなく『参加』と『辞退』の選択を迫られるボランティアも、司令塔不在で矛盾を感じながら当初計画通りの準備を迫られる自治体も、たまったものではないだろう。
(文=菅谷仁/編集部)