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「患者からお尻を触られるのは日常茶飯事」看護師、戦慄のセクハラ被害事情…泣き寝入りの理由

文=真島加代/清談社
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「患者からお尻を触られるのは日常茶飯事」看護師、戦慄のセクハラ被害事情…泣き寝入りの理由の画像1「gettyimages」より

 アメリカのエンターテインメント業界を発火点とするセクハラ被害の告発運動=「#MeToo」は、今や世界中に広がっている。日本でも、作家・ブロガーとして活躍するはあちゅうさんが過去の被害を告発して話題になった。最近では、財務省の福田淳一事務次官が複数の女性記者に対して発したセクハラ発言が社会問題化し、福田氏が辞任する事態となった。

 しかし、セクハラ被害を告発できるのは限られた人だけで、世の中にはさまざまな事情から声を上げることのできない女性がゴマンと存在する。

 その代表格といえるのが、看護師たちだ。多くの女性看護師が男性患者からセクハラを受けた経験があるにもかかわらず、被害を訴えるケースは極めて少ない。なぜ、看護師はセクハラ被害に声を上げることができないのか。現場の看護師たちに、その実態を聞いた。

血圧測定で手のひらをなめられた新人看護師

 男性優位の業界や職場では、セクハラを受けても被害を訴えることができないケースが多いという。アメリカのハリウッド女優たちでさえ、告発するまでには10~20年の時間を必要としている。

 セクハラ被害を受けやすいにもかかわらず、声を上げにくい職場のひとつが医療や介護の現場だ。

 なかでも、日常的に患者と接する機会の多い看護師は、男性患者からのセクハラ被害が多い職業だという。看護師歴7年目で、中規模の病院の消化器内科に勤める愛美さん(仮名・29歳)は、「患者さんから胸やお尻を触られるのは日常茶飯事です」とあきれた口調で話す。

 愛美さんが今でも忘れられないのは、新人看護師のときに受けた強烈なセクハラ被害だ。

「60代の男性患者の血圧を測るために手に触れると、その患者さんが突然私の手を握り、『きれいな手だねぇ、なめちゃお!』と、私の手のひらをなめたんです。処置が終わると急いでその場を立ち去り、すぐに先輩看護師に報告したのですが、先輩は『そういうことあるよね~』と聞き流して終わり。 特に問題にされず、“看護師あるある”で済まされてしまいました」(愛美さん)

 その男性患者は短期入院の予定だったので、内視鏡の手術が終わるとすぐに退院した。ホッとした愛美さんだったが、それ以降、どんな患者が来ても驚かなくなったという。

「おそらく、あの患者さんは、“新人看護師”という私の立場につけこみ、『新人だから大騒ぎしないだろう』とセクハラしたのではないでしょうか」(同)

 しかも、あきれたことに、この病院は「セクハラ・パワハラの防止」を掲げていて、被害を受けた際には上司に報告をするよう指導しているのだ。

男性患者から風呂に誘われた妊婦看護師

 地方の病院の泌尿器科に勤務する香菜さん(仮名・29歳)は、ある男性患者のセクハラ発言に戦慄し、身の危険を感じたことがある。

「当時、私は妊娠8カ月でした。40代の男性患者の担当になり、病棟の部屋にあいさつに行くと、その患者さんが私のお腹を見てニヤニヤしながら『俺、妊婦って好きなんだよね~。一緒にお風呂入らない?』と言い寄ってきたんです。これには、本当にゾッとしました。あまりに気味が悪かったので、上司に『担当を替えてください』と直訴したほどです」(香菜さん)

 その結果、報告を受けた上司がセクハラ患者の担当から外してくれたそうだが、香菜さんによると、このように上司に報告するのは例外だという。

「胸やお尻を触られるのは別ですが、普段は言葉のセクハラは聞き流してしまうことが多いですね」(同)

 これらのケースを見るだけでも、いかに看護師が日常的にセクハラ被害を受けているかがわかるだろう。もっとも、最近では、セクハラ被害を“看護師あるある”では済まさない病院もあるようだ。

「セクハラ被害を受けたらすぐに上司に報告し、対応してもらっています」と語るのは、東京都内の病院の外科に勤務する美樹さん(仮名・28歳)。

「患者さんから初めてセクハラを受けたときに上司に報告したのですが、すると、医師が患者さんにきつく注意してくれたんです。これをきっかけに、同僚の看護師たちが次々に『実は私も……』とセクハラ被害を告白。本格的に病棟内でセクハラ被害について話し合いました」(美樹さん)

 その後はセクハラ対策が徹底されることになり、ゼロになったわけではないものの、病棟全体ではセクハラ被害が減少したそうだ。美樹さんによれば、病院側のセクハラ対応に救われた看護師は多いという。

「セクハラ患者も退院する」というあきらめ

 彼女たちの話を聞くと、セクハラを行う男性患者の年齢は30~80代までと幅広い。ただし、そこには「短期入院患者」「整形外科の患者」など「命にかかわるほどの状態ではない」という共通点がある。

 入院中にたまったストレスや性欲を「お金を払っている」という立場を利用し、日常的に接する弱い立場の女性看護師に向けているという構図が浮かぶ。

 そして、対策を講じる病院も増えつつあるが、多くの医療現場では依然としてセクハラ被害が「よくあること」で済まされ、泣き寝入りを余儀なくされている。なぜ、看護師の多くは「#MeToo」と声を上げることができないのだろうか。

 前出の美樹さんは、「あまりにもセクハラ被害の回数が多すぎるので慣れてしまい、我慢するのが当たり前になっていることがあると思います」と話す。

「何より看護師は激務なので、セクハラ被害を報告して仕事が増えるくらいなら『すぐに帰って寝たい』というのが本音。そうした事情などから、セクハラ被害を告発する看護師が少ないのではないでしょうか」(美樹さん)

 セクハラ被害を訴えるということは、わずらわしい業務が増える=より疲弊することを意味する。ただでさえ、医療は人手不足が顕著な業界だ。セクハラを報告すると、その対応などで周囲の仕事や負担も増えることになる。そのため、「まわりに迷惑をかけるぐらいなら自分が我慢すればいい」という風潮もあるようだ。

 さらに、セクハラ加害者も患者である以上、いずれは退院する。実際、看護師たちは口々に「患者が退院するまでの辛抱」と語っていた。「その間だけセクハラを我慢すればいい」という、あきらめの気持ちがあることも否めない。

「#MeToo」の声を上げた国内外の著名人が語っていたように、セクハラ被害に立ち向かうには多くのエネルギーとサポートを必要とする。医療現場の労働環境が改善されない限り、被害を訴える看護師が増えることは望めないのかもしれない。
(文=真島加代/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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