アメリカから日本に対して、鉄鋼とアルミニウム製品への輸入制限と追加関税を迫るという脅しが始まり、日本は関税率アップを避けるための個別交渉を余儀なくされている。そして日本がその事前交渉を始めてみると、日本経済に一番打撃が大きい自動車に関税の矛先が向くかもしれないという情報が入ってきて、さらに米国の動きに怯える状況に追い込まれている。
問題は、トランプ米大統領が論理的かつ合理的な政策判断を下してくれない可能性があることだ。事の発端でもある中国との関税引き上げ合戦は、両国だけでなく世界貿易に大きなマイナスを生じさせる危険性が指摘されている。にもかかわらず、場合によっては泥沼の関税引き上げ合戦が行われ、世界の貿易が冷え込むというリスクが顕在化してきた。
場合によっては、リーマンショック級の経済危機が訪れるかもしれない。世界経済にマイナスであるにもかかわらず、なぜトランプ大統領は保護主義ゲームに力を入れているのかといぶかしがる知識人は少なくない。
もし、これまでの資本主義経済を発展させてきた自由貿易の枠組みが崩れ、世界に保護主義が蔓延したら、いったいどのような結果が生じることになるのか。アメリカ、中国、そして日本といった先進国の経済成長には、保護主義はマイナスになるというのが一般常識だ。だから、少なくとも日本の大企業にとっては、このトランプの政策の直接的な影響は大きなマイナスである。
アメリカも保護主義で経済発展
しかし、見方を変えると、この保護主義の台頭はアメリカのグローバル企業の目でみるとマイナスではないかもしれない。それは、このような考え方からである。
21世紀の初期、保護主義によって急速に経済成長を遂げたのが中国である。当時の中国政府は極端な保護主義政策をとっていて、工業製品への関税は平均で30%を超えていた。当然のことながら非関税障壁も大きく、中国国内で工業製品を生産する海外企業に対しても資本規制や知的財産の侵害など、さまざまな障壁が築かれていた。
そして重要なことは、それらの保護主義政策があったからこそ中国は経済大国に発展することができたことだ。
実はアメリカも同じである。アメリカが大国へと発展した19世紀末から20世紀初期にかけて、当時のアメリカは現代の中国よりもはるかに保護主義政策をとり続けた新興国家だった。旧宗主国のイギリスをはじめ、ヨーロッパの列強各国に対して、強力な保護主義政策を取り続けることで国内産業を保護していたのだが、その結果、第一次世界大戦を経てアメリカは世界最大の経済大国へと成長することができた。
自由貿易は先進国にとっては有利な制度なのだが、発展途上国と新興国にとってはこれほど不利な経済ルールはないのだ。
その観点で捉えてみると、もしこれから先、アメリカ、中国を中心に世界全体で自由貿易が後退したとしたら何が起きるだろう。WTO(世界貿易機関)の枠組みに従うのではなく二国間協定や各国の政策が優先することを是認する動きが大国主導で行われ、それを世界中の国々が模倣していったとすると何が起きるのか?
起きることは、先進国経済の後退と、途上国・新興国経済の発展である。では、それが何をもたらすのだろうか。