日本の中流層の没落
21世紀に入って、日本だけでなくアメリカでも中流層が没落し、以前のような生活水準が保てなくなる世帯が増えていった。そのため、例えば日本国内でいえば、自動車を買わない若者が激増した。若者は百貨店ではなくユニクロやジーユーで服を買い、スーパーよりも百円ショップでの買い物を好む。既存の小売店は没落に恐怖するようになってきた。
アメリカでもラストベルトといわれるトランプ支持者が多い中部、南部の地域では多くの家庭の生活水準が下がってしまった。アマゾンショックで小売業はバタバタと倒産を続けている。中流層の減少は先進国経済にはマイナスだ。
にもかかわらず、世界全体でみると中流層の絶対数はこの時期、2倍に増えた。日本やアメリカの中流層は収入を下げたにもかかわらず、世界の中流世帯数(年収3万5000ドル以上の世帯)は2億だったものが4億世帯へと倍増したのだ。
トランプ大統領の保護主義は、その状態をさらに極端な方向に推し進めることになると考えられる。中国も含め、豊かな国の国民は保護主義合戦の蔓延で貿易量が減少し、消費者物価の値上がりと経済後退で「ひどい不況」を経験することになるだろう。しかし、その一方で、その期間が長ければ長いほど、新興国や途上国の経済は発展し、世界中の中流層、そしてその下の新下流層(年収1万5000ドル以上の世帯)はその数を拡大させていくだろう。
行き着く先は世界経済の拡大である。そしてそれを一番喜ぶのは、グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブックといったアメリカのIT企業であり、コカコーラやP&Gといったアメリカの多国籍企業であり、同様にアジア・アフリカ地域に強い中国のIT企業である。
「世界中のどこかの国で利益を増やすことができるのであれば、自国での売上が減ってもなんてことはない」というグローバル企業にとってみれば、保護主義の台頭は経済危機ではなく、むしろ大きな経済チャンスがやってくることを意味する。
つまり今回の保護主義のもたらすものは、日本国内の企業の没落と、それに反比例する形でのアメリカ・中国のグローバル企業のさらなる発展という皮肉な未来を予感させるのである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)