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【追悼】友である工藤明男のこと(2)…関東連合3部作ヒットを経ての小説執筆への思い

文=沖田臥竜/作家
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先日亡くなられた関東連合元幹部で作家の工藤明男さんを偲び、生前、同氏と親交が深く、亡くなる直前までやりとりをしていた作家の沖田臥竜氏に、追悼の意を込めて、今の思いを綴ってもらった――(【第1回】はこちら)。

【追悼】友である工藤明男のこと(2)…関東連合3部作ヒットを経ての小説執筆への思いの画像1
筆者との共著『「惡問」のすゝめ』(柴田大輔名義)と、工藤明男氏の代表作『いびつな絆』

関東連合3部作ヒットを経ての小説執筆への思い

 生きていると、あの時にこうしておけば……と思うときがある。その思いを、私は『ムショぼけ』というドラマと小説にも投影させたのだ。特にドラマ『ムショぼけ』8話では、後戻りできないことの残酷さを描いたが、その回が放送される日に、実社会で同じことが起きようとは想像もしていなかった。

 11月28日、工藤明男と連絡が取れなくなって以降も、私はとにかく彼のLINE電話と携帯電話を鳴らし続けた。同時に、彼とも面識があり、人間として信頼している作家の猫組長と、ある出版社の社長に電話をかけた。2人にそこまでの状況を説明し、彼に何かが起こっているのではないかと話したのだった。

 ただこのとき、私は大きな誤解もしていた。誤字脱字が多く、内容もかみ合わない、彼とのLINEのやりとりの中には、無罪請負人といわれる某弁護士に連絡してほしい、とも取れるメッセージがあったからだ。弁護士に連絡を、といことは、何か事件にでも巻き込まれているのではないか、その直前に電話口から聞こえた「正面から出ます」という言葉と照らし合わせても、なんらかの事情で警察が迎えにでも来ているのではないかと思ったのだ。

 しかし、それにしてはおかしな状態ではあった。普通、身柄拘束なりをされれば、携帯電話の電源は落とされるのだが、「正面から出ます」という言葉以降もこちらから電話すると、呼び出し音は鳴り続けるし、LINEの既読はついていた。時折、返信も返ってきて、これも誤字が目立ったが、「私に味方してください」といった旨のメッセージもあった。そうしたやりとりは、最後に既読がつかなくなるまで、2時間ほど続いていたのだ。

 この時点では、まさかの事態になるとは想像もしていなかったが、猫組長と出版社社長に、その状況をオンタイムで伝えるうちに、なにか深刻な状況が起きているのではないか……となっていったのだった。そのため、猫組長が、彼との共通の知り合いに聞いてくれることになり、また出版社の社長には、翌朝一番で無罪請負人といわれる弁護士に、ありのままの状況を伝えてもらえるようにお願いしたのだった。

 そもそも彼を猫組長に紹介したのが私だった。そして彼と猫組長が意気投合し、『「惡問」のすゝめ』という共著を3人で出したこともあった。

 こうしたやり取りをしつつ、何度もLINEを見直したが、16時32分を最後に、その後のメッセージに既読がつかない。次第に夜も深まっていき、翌日になると携帯電話が鳴った。猫組長からだった。

 電話口の向こうの猫組長の「もしもし」という最初の声色で、嫌な予感がした。そして、彼がこの世にいないことを一瞬で悟った。悲しくも、その予感は的中することになったのだ。

 彼は友人であった。彼が過去にやってきた過ちや行為を、私が批判できるような立場ではない。私だって過去を振り返っても、人に言えないことばかりだった。

 だが、私たちにとった大事なのは、今だった。そして彼は、最期に私は頼ろうとしてくれた。彼の精神状態はどういった状況であったにせよ、私のことを信頼してくれていたのだろう。

 私は、損得だけでどうしても生きられない性格だ。人との付き合いの中には、ときに行き違いだって生じる。私は彼を強く叱責したことがあった。だが彼は私の話を最後まで聞き、いつも理解してくれていた。逆にいつでも、損得ではなく、真正面から感情をわかりやすくぶつけてくる私を信頼してくれていた。そして、小説の出版が決まったり、ドラマ化が決まったりと、何かあれば、いつだって「おめでとうございます!」と言ってくれていた。

 ただ私にはずっと彼に伝えきれない思いがあった。書き手のとしての彼の筆力は一級品だ。ノンフィクションの世界は売上10万部で超一流といわれる中で、彼は『いびつな絆 関東連合の真実』を筆頭に関東連合の内幕を描いた3部作で、それ以上の異例ともいえる部数を売り上げている。私もいち読者としては、どの本も読み応えがあると感じていた。だけど、彼を知れば知るほど、友人としての私の感想は、関東連合の元メンバーをはじめ、多くの人間が複雑な想いを抱くであろう、この3部作は世に出すべき本ではなかったというものだった。

 それでも出版したいという、彼なりの理由はもちろんあっただろう。だが、あの3部作がきっかけで、彼は自らを追い詰めることになっていった。そもそも出版社など薄情なものだ。書かすだけ書かせて、その後の面倒を見てくれるわけではない。

 もちろん、作家をとことん大事にしてくれる出版社や編集者も存在している。私自身の今があるのは、そんな人たちのお陰である。だが、私が知る限り、彼の置かれた環境は違った。だからこそ、彼に「小説を書こうかと思うんですが、どう思いますか」と相談されたときは、大いに賛成し、信頼できる編集者を紹介することにもなっていた。

 ジャンルを問わず物書きいう仕事をしている人の中には、一度は小説を書きたいと思う人が多いのだが、書く中でもっとも労力がかかり、売れないのが文芸の世界だ。そのため、実際に書くならば、相当な気構えと情熱が必要となってくる。小説を20年間書いている私ですら、もう書けないという重圧と毎日戦い続けている。それでも私は、物書きになるなら、初めから小説家になることを志していた。だから今も、苦しい中でも書けていると思う。

 彼は自分が書きたい小説の構想はできていて、緊急事態宣言が解除されれば、そのための取材で海外に行って、その題材をきちんと肌で感じて、見てきたいと話していた。

 そんな思いを抱きながらも、いつからか彼は常に重圧を背負い、見えない敵と戦い続けていたように思う。そして、熱く語ってくれた小説を書くことなく、彼はこの世を後にしたのだった。

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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