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【追悼】友である工藤明男のこと(1)…11月28日と、それ以前のやりとり

文=沖田臥竜/作家
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拙著『ムショぼけ』にサインをして謹呈したのは9月のことだった――。

 月並みだが、歳月の歩みが年々早く感じるようになってきた。今年もあと1カ月。あっという間だったように思う。

 そんな冬が始まったばかりのある日。年下の友が死んだ。すでに一部で報じられているが、元関東連合幹部の工藤明男だ。

 共通の友人からの依頼で、私は彼のアドバイザーも務めていた。その彼が亡くなったちょうどその日の夜、私が原作や監修などを務めているテレビドラマ『ムショぼけ』では、ヒロインが自らこの世を去るという回が放送された。くしくも彼も自殺だったのである。

 この世で最期に彼と連絡をとっていたのは、私だった。

 11月28日の日曜日の昼下がり。旅先から帰ってきた私は、旅行カバンなどを整理していた。そこに一本のLINE電話が鳴った。時刻は14時20分。その時は手が放せずに、約20分後の14時39分に折り返すことになった。電話の主は彼だった。

 その1週間前の21日の日曜日。彼からのLINEで私のところに「遊びに行きたいです!」「モザイクありなら番宣もさせて頂きます!」(そのまま引用)とのメッセージが届いていた。

 彼は、ドラマ『ムショぼけ』をずっと楽しみにしてくれていた。その宣伝用のYouTube動画にも出てくれるという。彼が遊びに来ることになっていたのは、25日。そのドラマにも関係している有名な俳優とロケ地の兵庫県尼崎市に行き、撮影で使った飲食店を、御礼の意味も込めて、一緒に回ることになっていた。だが、その前日の24日に彼から電話があった。「熱が下がらずにやはり行けそうもないです」というものだった。

 彼については、体調はもちろんだが、ずっと気にかかっていることがあった。それは精神状態だった。精神状態は、文字や文章にも表れる。

 例えば、普段は「ぼく」と使っている人間が、急にLINEなどの文章で「オレ」と使い出した場合、必ずしも怒りの感情を表している訳とまでいかないまでも、精神のバランスが微妙に変化している傾向がある。「私」「わたし」「ぼく」「僕」「オレ」「俺」「自分」など、普段使っている一人称を違う言葉にしだした場合、外部環境からの影響も含めて、その人物のモチベーションなど、なんからの心の変化があったりするものだ。曲がりなりにも、私は書く仕事しているので、それくらいの分析は自然にできるようになった。さらに、情報を扱う仕事やメディアコントロールの会社を経営しているので、日頃から、文章の書き手の心理状態を読み取るような習慣が身についているのかもしれない。

 最近気になっていたのは、彼の誤字の多さであった。作家でもある彼は何事にも慎重で繊細だった。一文字一文字、熟考をしながら原稿を作る書き手だったので、誤字脱字はほぼなかった。逆に私の場合はスピード重視の量産型で、まず頭から思い浮かんだ言葉が消えないように、誤字を出そうがとにかく書き殴る。その後に修正するタイプだ。

 その彼がひどく誤字を出すようになっていた。Twitterの投稿でさえ、誤字が目立っていたので気にかかっていた。そして、今年2月には、都内から同じ新幹線に乗り、新大阪駅近くのラウンジで相談も受けることになる。彼は落ち着きに欠け、余裕がない雰囲気だった。

 簡単にいえば、彼は、もともとは彼の友人でもあった、世間を騒がせた六本木フラワー事件で服役中の人物たちが、もう少しで出所してくることに頭を悩ませていた。そして、当時、私が拠点にしていた大阪市内某所の近くに都内から引っ越そうかと思うのだが、どうだろうかという相談をしてきたのだ。彼は友人でもあり、私は彼のアドバイザーも務めていたので、彼の意向ならばと、交通の便もよく、新幹線で都内にすぐ戻れる新大阪駅周辺で住居を探してあげることにした。だが、その後少し精神的に落ち着くと、その話は流れることになった。

 もう一点、私が彼から聞かされていたことで気になったのは、酒に対する変化だった。私も一時、酒とタバコをやめていたのだが、あることがあってから、長年愛用していたセブンスターはやめたものの、電子タバコに変え、酒も飲むようになっていた。

 一方、彼は2年数カ月もの間、酒をやめていると言っていたのだが、この秋に、いつものようにシェラトン都ホテル東京のラウンジで会ったときには「8月に2度飲んだんですよね~」と口にしたのだった。

 ストイックな彼からすると珍しいなと思った。ただ精神的にそんなに落ち込んでる様子はなかった。ひどく落ち込んだときは、彼が関西まで来て、2人で朝まで語り合ったことだってあった。そんな関係性を通して、私は私なりに彼を知っていた。彼も私の性格を理解してくれていたと思う。私が彼を表するならば、繊細だがタフな男、というものだ。

 話を11月28日、14時39分に戻そう。私からの折り返し電話に出た彼は、

 「朝、起きると大変なことになってるんですー」

 開口1番そう告げてきたのだった。ただ、彼はタフなため、言葉の内容とは裏腹に声のトーンは一糸の乱れも見せていなかった。私のほうが慌てた声を出していたと思う。状況がまったくわからなかったからだ。私は聞き返した。

「どうしたんっ! 何かあったん? 何がなんっ?」

 彼はそれには答えずに、少しの間があった後に「正面から出ます」と言い、電話を切ったのだった。時間にして40秒の会話だった。それが、私が聞いた彼の最後の肉声だった。

 何が起きているのかわからなかったが、普通ではないことが起きていることはわかった。私は後悔するのだけは嫌だったので、そこから何度も彼のLINE電話を鳴らし、何度もメッセージを送った。当初は彼からも返信は届いた。私が別の電話をしていると、彼からのLINE電話の着信もあった。だが、すぐに折り返すも繋がらず、もう一度かけると彼が出たが、何も言わずに電話を切ったのだった。

 そして、16時32分に送ったLINEメッセージに既読がついたのを最後に、その後送ったメッセージには、2度と既読がつくことはなかったのだった。(続く)

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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