太陽の塔はカラスだった!岡本太郎とカラスの関係を探りに“カラス不毛の地”大阪潜入記
なにわホネホネ団、そしてカラス女史登場!
こんなものまでグッズにしてしまうとは――。カラス愛好家としては、感激のあまり涙腺と財布の紐がゆるみっぱなしだが、果たして採算は取れているのだろうか。大きなお世話だが心配になり、先ほどの店員さんに質問してみる。
「失礼ですが……、これを買っていく方っていらっしゃるんですか?」
「それがね、意外とカラス好きの方がいらっしゃって、売れていくんですよ。在庫もここにあるのでたぶん最後ですね」
店員さんがやけに生き物にくわしいので、ふだんの活動を聞いてみると、剥製や骨格標本(博物館などに展示してある骨の模型)の世界では超有名な「なにわホネホネ団」の団長さまなのでありました。お名前は、西澤真樹子さん。
「なにわホネホネ団」は、鳥や哺乳類の亡き骸から骨格標本をつくって、この博物館などに納めているグループだ。博物館には、こういった人たちがサークルのような形で所属していることがある。動物の死体を触るなんて気味が悪い……と思われがちだが、そのひとつひとつが後世に生態系の情報を残してくれる貴重なサンプルなのだ。多くの人が、動物の体の仕組みに魅せられて、尊敬と喜びを感じながら取り組んでいる。
ホネホネ団は、標本づくりの必要性を広めるために、ワークショップやオリジナルグッズづくりにも精力的に取り組んでいる。実はこのショップにも、ホネホネ団が手がけた商品がたくさん潜んでいるのだった。
西澤さんは、ニコニコと言う。
「そんなにカラスがお好きなら、会っていってほしい人がいるんですよ。今呼びますね」
内線をかけてから、しばらくするとバックヤードから一人の女性が。
なんと、カラスの帽子で登場。同じくホネホネ団の橘さんだ。橘さんは、5〜6年前にカラスの巣の観察動画を見て以降、カラスが気になって仕方がなくなり、今ではすっかりカラスにゾッコンなのだそう。
もともと工作や手芸が得意な橘さんは、なんとカラスの帽子も手作り!
淡いブルーの瞳や赤いクチバシは、ヒナの特徴だ。「よくこのヒナそっくりのブルーを見つけてきたね」と西澤さんが感心すると、うれしそうに顔をほころばせる。
帽子は非売品だが、こちらの「ひながらすヘアゴム」(なにわホネホネ団)は、ショップで購入できる。驚くことに、こちらも一つひとつが手づくりだ。
大阪の自然史コーナーには、出入口のすぐそばにカラスのコーナーがあった。
出ました、ハンガー製のカラスの巣。だいぶ崩れてはいるものの、ヒナの体が触れる内側には、シュロなどの柔らかい植物が敷き詰めてあり、わが子への心遣いを感じる。ハンガーは、長居公園の外側の巣でよく使われているそうだ。
「ふっふっふ……、私に見とれるのはよいが、お前さんにはこれから何か使命があったのではないかい? 人生は一度きりだぞ。Never more」
カラスの剥製にそう諭されて、我に返る。そうだった! 今日はカラスのねぐら入りを追いかけるんだった! 彼らが集団でねぐらに帰るのは、だいたい日没前後。この日は夕方5時前がリミット。中村先生が教えてくれた万博記念公園まで、電車に乗るとギリギリの時間だ。
慌ててグッズや資料を買い込み、スタッフのみなさんにお礼を言って、電車に飛び乗る。
縄文時代から、大阪には野鳥の住む緑が貴重だった
やれやれ。不覚にもミュージアムショップで盛り上がってしまい、1秒たりとも展示を見ることができなかった。とほほ……。仕方なく座席の上で先ほどの戦利品を広げていると、1冊のある冊子が、大阪独自の「鳥や森の歴史」について教えてくれた。2014年に開催された特別展『ネコと見つける都市の自然』の解説書である。
えー、突然ですが、クイズです。
東京23区と大阪市を比べたとき、土地全体の広さに対して「緑の面積の割合」が少ないのはどちらでしょう?
正解は東京!――と思いきや、実は大阪市なのでした。2013年に大阪府が出した資料によると、都市計画の区分のひとつである“市街化区域”では、東京23区が18%なのに対し、大阪市は9%と半分以下の緑しかない。(ちなみに海外だとニューヨークは24%)
しかし、これは大阪という土地の古くからの個性ともいえる。時を遡って縄文時代。JR大阪駅がある梅田を含め、現在の大阪市のほとんどは海だったのだ。市の中心、大阪城のあたりから長居公園以南の台地だけがかろうじて陸だったという。時代が流れ、海が陸となっても、元“海”のエリアは湿地帯であったため、森や林が少なかったらしい。
東京23区に緑が残っている理由としては、「武蔵野台地」と「東京低地」という土地の高低差があったことも大きい。急な斜面の部分は、建物を建てるのに不向きだということで、林がそのまま残されたのである。ちょうどその境界線を走っているJR京浜東北線からは、線路の左右で高台と低地に分かれているのがわかる。大阪市はそういった種類の土地の起伏が少なく、多くの土地が開発されていったのである。
カラスは巣をつくったり休んだりする場所として、背の高い常緑樹を好む。茂った葉っぱが、敵から身を隠してくれるからだ。カラスにとって安心できる寝室が多い東京では、やっぱりそこに住みたくなるカラスも増えるように思う。
しかし、大阪にも大規模な常緑樹の森はある。それが、万博記念公園なのだ。万博記念公園は1970年の万博では6400万人もの来場者を受け入れたほどのキャパシティを持つ。広さも、代々木公園と明治神宮を足した面積のさらに約1.9倍!
カラスたちのゆりかごとなる母なる大地、万博記念公園へ。さぁ、急がねば!