──「我が町をNHK大河ドラマの舞台に!」。以前にも増して、全国各地でそうした誘致活動が活発化している。地方都市の衰退が懸念されるなか、大河ドラマで町おこしをして経済活性化をねらっているのである。はたして、その実相やいかに!?
「連続テレビ小説」と並び、NHKの看板ドラマ番組といえば、もちろん「大河ドラマ」である。63年の『花の生涯』で大河ドラマが始まって以来、基本的に1作品を1年間かけて放映している本シリーズは、現在の『八重の桜』で実に52作を数える。この国民的テレビドラマは、ご存知のように日本史上の人物および事件をテーマとする作品が多い。ここに注目したのが地方自治体である。各地方にゆかりのある歴史上の人物を主人公とするドラマの実現を目指し、全国で数々の誘致活動が展開されているのだ。
14年の大河ドラマに決定している、V6の岡田准一主演『軍師官兵衛』も、兵庫県姫路市など官兵衛ゆかりの5都市によって立ち上げられた「NHK大河ドラマ『黒田官兵衛』を誘致する会」の活動が実った形である。
「黒田官兵衛は、戦国屈指の軍師・参謀として広く知られています。姫路城に生まれ、官兵衛発案により秀吉を天下人とした中国大返しまで、主要な活躍は姫路を中心としたもの。ゆえに姫路市内には、黒田官兵衛ゆかりの地が数多くあります。誘致する会の設立・『黒田サミット』の開催をはじめ、講演会や交流会、さまざまなキャンペーンを通じて、大河ドラマ誘致への機運を盛り上げてきました。ドラマのなかで姫路がひとつでも多く取り上げられることを期待しています」(姫路市観光交流推進室・課長補佐)
●『独眼竜政宗』で大河と観光が結びついた
大河ドラマを誘致する最大のメリットとは何か? それは、大河ドラマをきっかけに、その土地を知り、興味を持ってもらうことができること。そして、それが観光に結びつき、大きな経済効果をもたらすことである。つまり、地域の活性化である。1年間という長期間をかけて放映される大河ドラマは、「町のPR」という面において、たいへん魅力のあるツールなのだろう。
こうした動きは、「コンテンツツーリズム」と呼ばれる。法政大学大学院政策創造研究科教授で経済地理学などを研究し、「コンテンツツーリズム学会」の会長でもある増淵敏之氏は、コンテンツツーリズムを「地域に『コンテンツを通して醸成された地域固有のイメージ』としての『物語性』『テーマ性』を付加し、その物語性を観光資源として活用すること」と説明する。大河ドラマがそうした対象と目されるようになったのは、66年の『源義経』が端緒だが、本格的にコンテンツツーリズムとして機能しはじめたのは、87年の『独眼竜政宗』からだと一般的に言われている。
『独眼竜政宗』は平均視聴率39・7%の大ヒット、時代はバブル景気初期。ここに、受け入れ側である仙台市の政令指定都市化前の関連インフラ整備、仙台の伝統的な祭事である「青葉まつり」再開をはじめとする各種イベントの開始などが重なり、仙台市をはじめとする伊達政宗ゆかりの地には観光客があふれた。
では現在、全国にはどのような誘致の動きがあるのだろうか?
最近では、今年5月に発足した、茨城県の水戸商工会議所を呼び掛け人とする、第2代水戸藩主・水戸光圀の物語を大河ドラマ化しようという動きがある。同月に設立された 「『光圀伝』大河ドラマ化推進協議会」によって、署名活動などが進められている。
「誘致活動のきっかけは冲方丁氏原作の歴史小説『光圀伝』(角川書店)です。同作が12万部を超えるヒット作となり『ぜひ大河ドラマや映画にして、全国に光圀公の新しいイメージを広げたい』という声が多方面から寄せられました。現在、関係機関や地元企業などの協力を得ながら署名活動を展開していますが、8月の時点で約14万件集まりました。長年続いたテレビドラマの、全国を漫遊するいわゆる黄門様のイメージが先行していますが、本来の光圀公の偉業が取り上げられることが少なかったことに少々複雑な思いもありましたので、本当の光圀公の魅力、ひいては水戸という町の魅力をPRできるチャンスと考えています」(水戸商工会議所・地域資源振興課長)
そのほか、長岡京市など京都府内の市町では明智光秀とその娘・玉(ガラシャ)、千葉県の大多喜町では本多忠勝・忠朝親子、千葉県香取市では伊能忠敬、高知県土佐清水市ではジョン万次郎をそれぞれが推すほか、千葉県館山市では、戦国武将里見氏の正史を題材とした大河ドラマの実現を目指し、誘致活動を目下展開中だ。