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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

岸田政権を操る新原・内閣審議官、“利害関係者”から高級ワイン贈呈もお咎めなしか

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
岸田政権を操る新原・内閣審議官、“利害関係者”から高級ワイン贈呈もお咎めなしかの画像1
首相官邸のHPより

 岸田文雄首相の人気が低迷している。9月18日に毎日新聞が報じた全国世論調査における岸田内閣の支持率は29%だった。政権発足後の内閣支持率は49%だったので、1年近くでおよそ半減したことになる。何もしないことで支持率を維持していると揶揄されてきた岸田政権の潮目が変わることになったのは、皮肉なことに首相のリーダーシップが原因だった。政治部記者はこう語る。

「岸田氏は珍しく『国葬の決断』と『統一教会問題処理』で迅速な決断と行動を見せました。しかし、いずれも国民の支持を得るような結果とならなかった。国葬も統一教会処理も人気回復を狙った一手のはずでしたが、いずれも杜撰なやり方が露呈してしまい、岸田首相の政治家としての評判を下げる結果になってしまった」

 これまで何もしないのに岸田政権が盤石だったのには理由がある。官僚の強い下支えがあったからだ。実は岸田政権は安倍政権に似た構造を持っている。安倍政権時では安倍晋三首相と菅義偉官房長官という強いリーダーシップを持つ政治家がいたと同時に、経済産業省出身の今井尚哉氏が首相秘書官として権勢を振るい強い政治力を持っていた。今井氏は安倍内閣が掲げた「一億総活躍社会」というスローガンを発案したことでも知られている。

 岸田新政権が発足したときも首相秘書官には元経済産業事務次官の嶋田隆氏が起用された。嶋田氏は今井氏とは経産省の同期として知られ親交も深いという。しかも嶋田氏は元事務次官というエリート中のエリートで異例の抜擢となっている。つまり安倍政権と同じように、岸田政権でも大物経産官僚を要に起用したという意味で、その構造が似ていると分析されているのだ。

岸田政権のキーマン=“菊池桃子の夫”

 そして岸田政権のもう一人のキーマンとなっているのが新原浩朗内閣審議官だ。新原氏は東大経済学部卒で1984年に経済産業省(当時は通商産業省)に入省したキャリア組で、経済産業政策局長を務めるなどエリートコースを歩む。安倍政権時代には今井氏の子飼として活躍した。世間では“菊池桃子の夫”としても知られている。

 新原氏が岸田政権のキーマンであることを浮き彫りにする文書がある。

<秘 木原先生 岸田新政権の樹立に向けた留意事項>

 こう題された書類は昨年の10月初旬、岸田側近とされる木原誠二氏(現官房副長官)に極秘裏に提出されていたものだ。9月29日の自民党総裁選で岸田総裁が誕生した直後の時期であり、まさに新政権発足を睨んで作成されたものなのだ。

 一部では「新原ペーパー」と呼ばれ、岸田首相の政権構想に大きな影響を与えるものとなっている。例えば菅政権で設置された成長戦略会議を廃止して、岸田政権では「新しい資本主義実現会議」を新設すべきとの提言に紙幅を大きく割いている。そして政府会議のメンバーにまで言及している。例えばこんな調子だ。

<岸田政権が樹立された場合、成長と分配の好循環を検討する新しい資本主義実現会議(仮称)の設立が必要となる。この場合、総理自らが、この会議の議長に就任する必要>

<成長戦略会議のメンバーについては、委員の構成がリアリティを欠くとの意見が多い。アトキンソン議員、三浦(瑠麗)議員は少なくとも替えるとともに、経済界から要請がある十倉経団連団長を未来投資会議までと同様に、加える方向で検討する必要がある>

 岸田政権では新原案通り成長戦略会議は廃止され「新しい資本主義実現会議」が新設される形となった。ペーパー通り、岸田首相が議長に就任した。そしてアトキンソン氏、三浦氏が委員から外れる一方で、十倉氏をはじめ新規メンバーとして「不可欠」とされた人物はみな有識者構成員に加えられたのである。

「このペーパーは新原氏がいかに岸田政権を操ってきたかを示している。自身を冷遇した菅政権への意趣返しでアトキンソンをバッサリ切り、新しい資本主義実現会議に十倉氏をねじ込むことに成功した。岸田首相がいくら“分配”を強調しても、経団連という最強のロビー団体の会長をメンバーに入れたということは、大企業優遇の方針が岸田政権でも続くと見ていい」(官邸関係者)

 新原氏は「新しい資本主義実現本部事務局」では事務局長代理という要職に就いた。事務局の組織ではナンバー3のポジションだが、事務局長(栗生俊一・官房副長官)と事務局長代理(藤井健志・官房副長官補)はいずれも兼務であり、事実上のトップとして仕切っているのが新原氏なのだ。内閣官房で新原氏は新しい“官邸官僚”として権勢を振るい、「事務次官より偉い」(経産省関係者)との評を得るまでになっている。

国家公務員倫理法違反の疑い

 この新原氏については、筆者は「菊池桃子の夫、新原浩朗・内閣審議官 経団連会長から『高級ワイン』もらって宴会」(「週刊ポスト」<小学館/7月22日号>)という記事を書いた。記事の概要は次のようなものである。

 6月7日、十倉氏は黒色のセンチュリーで新しい資本主義実現会議に出席するために総理大臣官邸を訪れた。この時に十倉氏は新原氏にワインを贈呈したというのだ。十倉氏から新原氏に贈られたワインは、ブルゴーニュの名門シャトー「ルロワ」のもので、値段は3万3000円という高級品。こうした物品の提供を受けることは国家公務員倫理法に違反している疑いがある、というものだ。

 新原ペーパーで十倉氏を推薦していたことは前述した。実は新原氏と十倉氏の関係は新しい資本主義実現会議だけではない。新原氏は2021年9月まで経済産業政策局長を務めており、同時期に十倉氏の会社が補助金を受けているのだ。

 十倉氏は経団連会長であると同時に、現在も住友化学の会長を務めている。新原局長時代に住友化学は、経産省経済産業政策局の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を2回(一次公募2020年採択・二次公募2021年7月採択)受給しているのである。

 ここで焦点となるのが、基金を通した補助金でも当該省庁と事業者を「利害関係者」と見なすことができるのかという点。人事院 国家公務員倫理審査会はこう答える。

「一般論として、府省から基金設置法人を通して補助金交付していても、その基金設置法人から補助金を受けている業者は、『利害関係者』になるとされています」

 また、国家公務員倫理審査会事務局が作成した『国家公務員倫理規定 論点整理・事例集』では<倫理規定では『職員が職務として携わる事務』の内容に応じて利害関係者の範囲が定められているため、局長であれば局全体の事務に(中略)役職段階が高い職員について、実質的に事務に関与していない場合であっても、行政組織上、職務権限を有している以上(中略)当然に『事務に関わっている』と解される>とある。

 また経団連のサイトでも「国家公務員倫理法・倫理規程の運用について」というページがあり、利害関係者について次のように記述されている。

<第2は、補助金等の交付対象となったり、交付の申請をしている、もしくは交付申請をすることが明らかな事業者等・個人である。補助金には、国から直接受ける直接補助金と、地方公共団体や特殊法人などを経由する間接補助金があるが、間接補助金を受ける場合でも、国から補助金を交付された者から直接に受ける場合は利害関係者となる>

 つまり新原局長時代に住友化学が最大250億円規模の補助金を受けていたという事実は、新原氏と十倉氏を「利害関係者」であると疑うに十分な材料であるといえよう。

 国家公務員倫理法では、過去3年間に在籍したポストの利害関係者は、異動後3年間は引き続き利害関係者と見なされ、利害関係者から金銭又は物品の贈与を受けることは免職、停職などの対象となる。

業界と官僚の“癒着”

 当時、新原氏は「ワインは50人いる職員みんなで頂いた。十倉氏との利害関係にない。経済産業政策局のなかでも(補助金を所轄する)地域経済産業グループは独立している部門。私は決裁ルートにタッチしていないし、知らない」と疑惑否定した。同時に新原氏が見解を聞いてくれと主張した経産省も、「週刊ポスト」編集部の取材に対して新原氏と同じ理屈で「利害関係を否定」するコメントを出した。だが、ある経産省関係者はこう首を捻る。

「そもそも官僚が民間人からワインのプレゼントを受け取ること自体が不謹慎で、そのような例を他に聞いたことがありません。職員50人用にプレゼント頂いたという話も変で、ワイン2本では50人全員が呑むには少なすぎる。実際に職員にはお菓子が差し入れされており、高級ワインは十倉氏から新原氏へのプレゼントだったと考えるのが妥当でしょう。規定を読む限りは、新原氏と十倉会長は“利害関係者”としか見えません」

「国家公務員倫理法」は接待汚職事件を受けて制定されたものであり、同法の〈目的〉として第一条にこう規定されている。

〈この法律は、国家公務員が国民全体の奉仕者であってその職務は国民から負託された公務であることにかんがみ、国家公務員の職務に係る倫理の保持に資するため必要な措置を講ずることにより、職務の執行の公正さに対する国民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り、もって公務に対する国民の信頼を確保することを目的とする〉

 9月14日、国家公務員倫理法に基づいて「贈与等報告書」が開示された。これは2万円を超える贈与を事業者から受けた場合、報告書を公開するという規制・ルールに基づいて開示されたものだ。ここで新原氏は自身が所属する内閣官房に以下のように報告を出していた。

<贈与等の内容 金銭物品の贈与>

<価格 33000>

<事業者等 一般社団法人日本経済団体連合会 十倉雅和会長(新しい資本主義実現会議有識者構成員)>

<備考 利害関係なし>

 ワイン贈与の理由については、筆者取材のときと同じ内容が記述されていた。新原氏は報告書を出すことで、ワイン贈与を正当化しようと試みたものだと思われる。内閣官房の報告書(平成29年以降)を遡ってみても、その他の官僚から報告されているものは「講演」や「執筆」の対価によるものばかりだった。新原氏のように事業者から高級ワインを贈呈されるというケースは内閣官房で公開されている報告書では皆無だった。

 問題の本質は、業界と官僚の“癒着”にある。物価高で国民生活が苦しくなるなか、官僚と一部の企業がベッタリであると見なされるのは由々しき事態であるといえよう。しかし政府のトップであり、新しい資本主義実現会議の議長でもある岸田首相にはそうした危機意識はなく、現在に至るまで新原氏は“お咎めなし”とされている。

 新しい資本主義では“成長と分配の好循環”を説いている。しかし、岸田政権が行ってきた経済政策を見ていくと、金融所得課税強化の見送り、GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債発行、原発再稼働推進など、経団連が求めている政策ばかりが次々と実現されていることがわかる。十倉氏はその意味でも、岸田政権のキーマンたる新原氏に高級ワインをした献上した“恩恵”を十二分に受けていると指摘することができるだろう。

「モラル」という概念なきまま“新しい資本主義”を標榜したところで、それは国民の支持を受けるものとはならないのではないか。

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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