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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

自民党と国民民主党の連立政権構想、実現の可能性…岸田政権、財務省依存の末路

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
自民党と国民民主党の連立政権構想、実現の可能性…岸田政権、財務省依存の末路の画像1
国民民主党・玉木代表と岸田首相(首相官邸HPより)

 12月2日に時事通信が報じた「国民民主党、連立入り」報道が話題になっている。これは岸田文雄政権の窮余の一策として、自民党が公明党との連立政権に国民民主党を組み込もうと動きだしたというもの。報道によると自民、国民両党幹部はこれまで極秘に接触を重ね、岸田首相も連立構想に「ゴーサイン」を出し、玉木雄一郎・国民民主党代表も腹を固めたなどと報じられた。“死に体”の岸田首相の奥の手が国民民主党との連立だった、ということで永田町はちょっと騒めいたのだ。

 だが、騒めきが「ちょっと」だったのは、この奇手、タネがバレバレのへたくそなマジックみたいなものだったからなのだ。それは岸田政権、国民民主がお互いに秋波を送り合っているのは周知の事実だったからである。実際、今年に入ってから自民党は、ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除を唱える国民民主に配慮。国民民主が自民案に賛成するなど、他の野党とは一線を画した行動を取っていたからだ。

 連立報道について、岸田首相は「まったく知らないし、考えていない」と否定し、国民民主の玉木代表も「報道のような事実はない。野党の立場で、是は是、非は非、ということでやっていく」と否定した。しかし前述のように国民民主が野党でありながら、今年度の本予算や第1次補正予算に続いて、第2次補正予算にも賛成しており、岸田政権と近くあろうとしていることは周知の事実なのだ。

財務省コネクション

 実は国民民主に対する連立打診も今回が初めてではない、と永田町ではいわれている。1年前くらいから、岸田首相の切り札は国民民主だということは知られた話だったのだ。

 なぜ、国民民主との連立なのか。要は単純な話なのである。岸田首相の懐刀といわれている木原誠二・官房副長官と玉木代表が東大法学部の同窓で、1993年に旧大蔵省(現財務省)入省の同期というつながりからコネクションが深いということなのだ。また、国民民主の古川元久氏(国対委員長)は88年に同省入省というつながりもある。つまりお友達に、この苦境を打開したいと相談しているということでしかない。財務省コネクションによる発案であり、岸田政権を下支えしている財務省本体もこの話をバックアップしているともいわれている。

 また。玉木氏は自民党の故・大平正芳の選挙区を継いだ議員でもあることもポイントとなる。大平氏は元大蔵官僚であり、政治家に転じてからは宏池会会長も務めた大物政治家だった。そして玉木氏とは縁戚関係にあり、地盤を引き継いだという関係がある。つまり玉木氏は財務省だけではなく、宏池会色もあるわけで、現在の宏池会の領袖でもある岸田首相にとってアレルギーがないともいわれている。

 口の悪い自民党関係者は「官僚出身者の浅知恵」と連立話をバッサリと斬り捨てる。つまり連立話は岸田首相の人脈、そして政治力のなさを浮き彫りにするものだからだ。そして「財務省政権」「官僚政権」などと呼ばれる岸田政権が、いかに財務省に依存しているかを示すものでしかないからだ。

 連立は岸田首相にとってどのようなメリットがあるのか。国会において数を少し増やすというメリットはある。もしかしたら岸田政権と距離を置きつつある公明党に対するけん制という意味合いもあるかもしれない。しかし、世間的には大きなインパクトはない。

 これまで自民党と連立を組んだ野党は、社会党をはじめ軒並み衰退したという歴史がある。生き残っているのは創価学会が母体となっている政党である公明党だけ。つまり国民民主にとっては、連立は党の存亡をかけた決断となる。それでも話が消えないのはナゼか。

「玉木代表は“大臣になりたい病”で連立に常に前向きだからです。岸田首相が重量級の大臣ポストを約束すれば、玉木氏が連立話に乗る可能性は極めて高いとみられています」(政治部記者)

利害が一致した国民民主と岸田首相

 議席数が少ない国民民主にとって、現状を打開するには2つの選択肢しかないとされてきた。「日本維新の会」と合流して強い野党として生き残るか、連立を組んで自民に合流するかの二択。かつての民主党として一緒だったものの、いくつかの禍根を残して袂を分かつことになった立憲民主党と協力するという案はないとされている。

 だが今年に入って玉木氏の与党への秋波が強まったせいで、維新サイドは国民民主との連携に興味を失って行く。2月には国民民主が衆院本会議で政府の新年度当初予算案に賛成したことについて、日本維新の会の松井一郎代表(当時)は「連立を目指しているんだなということがひしひしと伝わってきた。与党になるというなら、もう連携はできない」と厳しく批判したのだ。そして連立報道が出た後も、維新・現代表の馬場伸幸氏が「国民は、完全に与党としての動きをしている。中途半端なことはやめ、与党入りすればいいのではないか」と突き放した。つまり国民民主は常に与党に秋波を送っていたことで、彼らにとって残されたカードは連立入りしかなくなったともいえる状況下にあるのだ。

 一方で岸田首相も同じような苦境にある。山際、葉梨、寺田氏が相次いで沈没と大臣辞任ドミノとなり、支持率は30%台を切るのも時間の問題といわれている状態にある。

「政治とカネの問題で辞任した寺田総務大臣の後任が松本剛明氏だったことで、大臣のなり手がいないことが露呈した。松本氏は民主党出身の外様だったからです。菅義偉氏が入閣にまったく興味を示さないように、おそらく自民の重量級議員は泥船に乗るつもりがなく、岸田政権と距離を置き始めているので、松本氏しかいなかったとみられています。

 同じことが国民民主との連立案についてもいえます。もはや自民をコントロールする力は岸田首相にない。そこで大臣を餌に国民民主を呼び寄せれば、木原官房副長官の存在もあり当面は岸田首相のいうことを聞いてくれる便利な道具、コマとなってくれるわけです」(前出・政治部記者)

 つまり国民民主と岸田首相は利害が一致した関係にあるのだ。果たして国民民主との連立構想が、支持率の低迷に歯止めがかからないダッチロール中の岸田政権にとって、起死回生の一手となるか。本当に連立が実現するかも含めて注視していきたい。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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