神話に登場する「女神」のイメージは、美しく、優しい女性像かもしれない。しかし、怖かったり、強かったり、頼りなかったりと、実は女神もそのキャラクターはさまざまだ。
旧石器時代の古くから、人類は女神を信仰していたことが確認されており、日本でも縄文時代の土偶は女性の姿のものが多く見つかっている。
キャラクターもさまざま 世界の神話の女神たち
古くから人々に信仰されている女神を解説するのが『世界の神話 躍動する女神たち』(沖田瑞穂著、岩波書店刊)だ。本書では、ギリシア、北欧、インド、ベトナム、日本、韓国など世界各地やネイティブアメリカン、アイヌなどの諸民族に伝わる神話や昔話から「美しく優しい」だけではない多様な女神を紹介する。
たとえば「怖い女神」とは、どんな女神なのか。恐ろしくも勇ましく悪魔を退治することで人間に益することもあれば、人間を取って食べてしまう女神や女神的存在は世界中にいる。
日本の昔話でも、怖い女の妖怪が出てくる話がたくさんある。その一人が山に住む女の妖怪、ヤマンバだ。「三枚のお札」では、寺の小僧さんが山奥へ栗を拾いに行き、夜になってしまったので、そこに現れたおばあさんの家に泊めてもらうことに。ところが、おばあさんは実はヤマンバで、小僧さんは追いかけられてしまう。後ろにお札を投げながら逃げた小僧さんはお寺に帰って来て、和尚さんに助けてもらうという話だ。
ヤマンバは山に住む恐ろしい妖怪だが、本来は山の女神であったと考えられている。山焼きをともなう焼畑農耕の守り神としての側面を強く持っているのだ。「三枚のお札」では、人間を食べようとする恐ろしい面が強調されているが、親切にされると人間に恩返しをしたり、畑の実りを授けてくれたりもする。山の妖怪という面がある一方、山の女神に近い性質も持っているのが、ヤマンバなのだ。
悪魔王を瞬殺する戦の女神であるインドの戦女神ドゥルガー。ベトナムの神話では、パイナップルになって、人々にとって欠かせない大切な果実を生み出し、親孝行するなまけ者の娘の話がある。人間から女神になった稀有な存在、ギリシアのアドリネ。そして、ヨーロッパの魔女など、本書ではさまざまな地域の個性豊かな女神たちの神話を紹介している。美しく優しいだけではない女神の世界を楽しんでみてはどうだろう。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。