『娼婦たちから見た日本』(八木澤高明/著、角川書店/刊)という本は、日本の娼婦に焦点を当てた一冊だ。
日本には神奈川県の黄金町や三重県の渡鹿野島、沖縄県の基地周辺など、花街として有名な地がいくつかある。現代の日本で春を売るのは、多くがタイやインドネシアから出稼ぎに来る女性たちだった。本書は、フリーランスのカメラマンである著者が日本・アジア各地で娼婦や元娼婦たちを10年以上にもわたって取材し続けたルポルタージュである。
本書では、著者が女性たちと交わした言葉が丁寧に書かれており、著者が冷たい観察者として彼女たちと接しているのではないことが分かる。日本から、マレー半島、南米、そして現代の秋葉原でデートサービスをする女子高生まで、ひたすらに自分の足を使って調査したルポは一読の価値がある。
第二章「四百年の歴史を娼婦は灯す」では、渡鹿野島を取材した記録がつづられている。
江戸時代には風待ちの港として賑わった渡鹿野島。船乗りと、男たちを慰める娼婦の出会う町として栄えていた。そして、平成の世である現在もまだ伝統がいき続けている……はずだった。
しかし、著者が目にしたのは、潰れた旅館やスナック、廃墟のようなアパート。渡鹿野島では警察の取締りが頻繁に行われるせいで、売春産業が目に見えて衰退しているという。現在この島で従事する女性はほとんどがタイ人で、観光ビザなどで不法労働をしている者も少なくないとつづる。年に3回も行われたという手入れで、女性が次々と逮捕されてしまったのだという。島の老人は「昔は250人も女がいたが、今では10人もいなくなってしまった」と語る。
著者が知り合ったタイ人の娼婦・ノンは、今後の売春島について「もうなくなるよ」と言ったという。島そのものがまるで役目を終えていくかのようであるが、数は少なくなったとはいえ娼婦たちはまだ島に住み続けている。まさに彼女たちは最後の灯し火であるのだろう。
混沌とする日本社会の中で、娼婦という存在に向き合った渾身の一冊といえる。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。