のバイナリー発電装置「マイクロバイナリー」
(「同社HP」より)
昨年10月の発売開始以来、全国の企業や自治体から300件以上の問い合わせが殺到した再生エネの小型発電装置がある。神戸製鋼所が開発したバイナリー発電装置の「マイクロバイナリー」だ。最大発電能力は70kW。100kW以下のバイナリ-発電装置では、初の国産品でもある。
バイナリー発電は「低温発電」の一種。加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回して発電するのが特徴。加熱源系統と媒体系統の2つの熱サイクルを利用して発電することから「バイナリーサイクル(2元サイクル)発電」と呼ばれている。
地熱、温泉水、太陽熱、バイオマスエネルギー熱利用の排熱、工場・地下鉄・ごみ焼却炉の排熱など、100℃以下の未利用熱エネルギーを利用する発電に最も適しているといわれる。未利用熱エネルギーは大都市の排熱だけでも「原発1基分に相当するエネルギー量」(日本環境技研試算)といわれており、理論的に導き出された資源の総量=賦存量も極めて大きい。
わが国では実用運転が2例(九州電力の八丁原地熱発電所、鹿児島県の霧島国際ホテルの自家発電)しかないので、あまり知られていないが、欧州ではバイオマスエネルギー熱利用の「排熱発電」として広く利用されている。
賦存量は膨大だが建設が難しい地熱発電所
地熱発電が今年7月から実施された再生エネのFIT(固定価格買取制度)の対象になったおかげというか、弾みのようなかたちで、このバイナリー発電が急速に脚光を浴びている。神戸製鋼所のマイクロバイナリーに問い合わせが殺到したのもその影響だ。
環境省の「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によると、日本国内の地熱発電の賦存量(150℃以上の「高温熱水資源」)は2400万kW。これは世界でもトップクラスで、米国の3000万kW、インドネシアの2780万kWに続く第3位の賦存量になる。
しかし、2400万kWと試算された地熱発電の実用運転は、現在、全国で18カ所・53万kWで、試算量の2%強にすぎない。地熱発電普及が遅れている最大の要因は、資源開発場所の特性にある。その約80%が建設規制区域の国立・国定公園内にあるため、地熱発電所の建設が不可能になっている。
そこで環境省は、FIT実施が近づいた今年3月、地熱発電開発を促進するため、国立・国定公園内での地熱発電所建設を実質的に容認する規制緩和を行った。
これにより地熱発電開発気運は盛り上がったが、ほかにも開発の障害は残っていた。
(1)高温熱水源の探査から地熱発電所運転開始までの期間が長く(10〜20年)、探査・開発段階で巨額の投資が必要
(2)地熱発電所の大半は山岳部での建設になるため、建設コストが高い
(3)深い地層に貯留している高温熱水は砒素、水銀などの毒性物質を含んでいる場合が多く、この熱水のくみ上げによる環境負荷が心配される
こうして、いったん盛り上がった地熱発電開発気運が急速にしぼんでゆく過程で、代わりに盛り上がってきたのが、低温熱水資源の温泉を利用した「地熱バイナリー発電」(温泉発電)だ。