このように、時間をずらして番組を見る世帯は多いのではないだろうか。しかし、そのような世帯は視聴率にカウントされていない。多様化する視聴方法に、テレビ業界がついていけないのだ。
視聴率が重視されるのは、スポンサー側が「広告効果が高い番組」であるかどうかに注目しているからだ。民放のテレビ番組の制作費の大半は、番組の合間に流れるCMの広告収入によって成り立っている。これらのCMのスポンサーは、視聴率の高い番組に集中する傾向が強い。なぜなら、視聴率が高ければ多くの視聴者にCM上のメッセージを届けることができるからだ。それゆえに、テレビ関係者は視聴率をひたすら追求するようになる。最近バラエティ番組が増えてきたのも、安易に視聴率が取れるということが少なからず影響している。
つまり、テレビ番組を録画して見る視聴者を無視した番組制作が行われているともいえる。また、『ワンピース』を例に挙げると、小学生にとっては再放送とはいえ劇場公開時や第1回放送時に見ていないために、新鮮であることには変わりない。しかも、放送されていた時間にすべて見られないこともあり、そのような場合は録画してじっくりと後で見る。そのような視聴スタイルがあるにもかかわらず、視聴率が低いという一事をもって“惨敗”と切って捨てるのは、あまりにも性急な判断のように思える。特別フジテレビ側を擁護する気持ちはないが、あえて人的なコストをかけて特別番組を制作せず、録画する視聴者が多いと思われる『ワンピース』を放送したことは、ある意味英断であったと考えてもおかしくないのではないか。
●タイムシフト視聴率元年となるか?
これまでのようなリアルタイム視聴率だけでは、テレビ視聴の動向を把握できないという問題を解決するために、ビデオリサーチではテレビ番組の録画再生(タイムシフト視聴)の動向を把握する研究を行っている。13年10月から、関東地区の視聴率調査仕様に準じたタイムシフト視聴率調査を開始しており、15年1月からデータの提供を始めるという。
試験的に調査した結果、14年3月31日~6月29日の間で7日以内の録画再生視聴が多かった番組の1位は『日曜劇場「ルーズヴェルト・ゲーム」』(TBS系)の7.7%。2位は同率で『森田一義アワー 笑っていいとも!最終回』(フジテレビ系)と『木曜ドラマ劇場「MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜」』(TBS系)が7.5%、3位以降も連続ドラマが数多くランクインした。その中でバラエティは『笑っていいとも』を除くと、22位に『アメトーーク!』(テレビ朝日系)がランクインしたのみで、上位には食い込めなかった。リアルタイム視聴率のランキングでは多くのバラエティが上位に名を連ねるが、じっくりと見る傾向のあるドラマやアニメ、映画などがタイムシフト視聴率で上位を占めているのは非常に興味深い。タイムシフト視聴率が運用されるようになれば、リアルタイム視聴率一辺倒だったテレビ業界にとって、新たな指標を基にした番組制作とスポンサー評価が出てくることが期待できる。
テレビが面白くなくなったといわれて久しいが、それはリアルタイム視聴率を追求するあまり、テレビ局が安易なバラエティ番組ばかり放送することも一因だろう。そもそも、ビデオオンデマンド(VOD)や動画配信、YouTubeのような動画共有サービスなど、エンターテインメントコンテンツに視聴者の時間が奪われてしまい、リアルタイムに視聴している人が少なくなっている時代に、リアルタイム視聴率は意味がないのだ。
タイムシフト視聴率の導入によって、テレビがまた輝きを取り戻すことができるようになるのか。今年は重要な節目の年となるだろう。
(文=大坪和博/PLAN G代表)