09年夏、キヨシはようやく更生施設を出て、自立した生活を目指すことになった。ようやく生活の立て直しができる方向が見えてきたときだった。一人暮らしをするようになったとき、練炭も持っていた。
「これがないと落ち着かない。これが僕の原点ですから」
と笑って言っていたこともあった。仕事も探すという話をしていた。このときも自殺系サイトにアクセスしては、ネット心中を止める側で居続けた。それまでに出会った相談に応じるタイプの「自殺系サイト」の管理人とも付き合いがあり、よく食事をしたりしていた。そのため、筆者も安心していた。
●キヨシの死
しばらくすると、キヨシの彼女から電話があった。数日間、電話に出ないという。「まさか……」と思ったが、念のために、最寄りの警察署に電話をした。すると、「そうした案件なら、110番してください」と言われ、杓子定規な対応をされた。文句も言いたかったが、それどころではない。110番して事態を伝えると、刑事課に回された。すると、これからキヨシの家に行ってみるという。
「死後、数日たっているようです」
半日後、刑事課から電話があった。どうやら1人で練炭自殺をしたらしい。止める側だったキヨシがまさか……。筆者の想像もできなかった結果になってしまった。医療や福祉のサポートが途絶えたとき、自殺リスクが高まる、という話を聞いたのはその後だった。
一度自殺を止めても、その後も止められるとは限らない。自殺志願者たちは「生」と「死」の狭間を行ったり来たりしている。自殺を考えない時期もあるため、周囲は安心してしまうことがある。今年の8月、「自殺総合対策大綱」が新しくなった。「自殺を予防する」といったとき、一時だけではなく、長期にわたってかかわり続けなければ意味がない。
(文=渋井 哲也/フリーライター)