イスラム国がフリージャーナリスト・後藤健二氏を殺害したとする動画を公開した3日後の2月4日、衆議院予算委員会の答弁で岸田文雄外務大臣は、今回の事件について特定秘密保護法の対象となる情報があり得るとの認識を示した。
昨年夏に民間軍事会社役員・湯川遥菜氏がイスラム国に拘束されていることが明らかになり、秋には後藤氏も拘束された可能性が極めて高いことが関係者の間に伝わっていた。当然、その時点で日本政府関係者も知っていたはずである。
従って、昨年夏から現在に至るまでの日本政府の対応にさまざまな疑問や批判が湧き上がっているのは当然といえる。例えば、イスラム国と接点を持つイスラム法学者の中田孝氏やジャーナリストの常岡浩介氏に対し、公安警察を使って家宅捜索をかけたことで、イスラム国関係者との接点が一時的に途絶えてしまった。年が明けて後藤氏が人質になっていることが公になり、中田氏は再びイスラム国幹部に連絡を取って外務省に情報を提供したが、政府側は取り合わなかったという。
これらはほんの一例である。政府がこの問題に対して何をしてきたのか、あるいはしてこなかったのかは、ほとんど明らかにされていない。
また、邦人2人が人質に取られていることを知りながら安倍晋三首相は中東を訪問し、イスラム国と敵対する国々に資金援助することを表明。身代金を要求されて以降も、敵対する一方の側に味方すると言い続けて人質を危険にさらし続けた。一連の政府や安倍首相の言動の意図は明らかにされるべきだが、先の岸田外相の発言によれば、重要な情報が特定秘密に指定されて隠蔽される可能性がある。
遺族をはじめ関係者が真相を知ろうとして情報収集すれば、何が秘密かは知らされないため、秘密保護法に触れたとして突然逮捕される危険もあるわけだ。逮捕に至らなくとも、情報が隠蔽されれば真相は闇に葬られるだろう。市民の言論表現の自由を弾圧し、権力者の失政・失敗を隠すための法律だと、全国各地で廃止運動が続いているが、今回の人質事件と岸田外相の発言により、その懸念は杞憂ではなく現実であることがはっきりした。