ブルームバーグ 社員教育を偽装したノルマで追い詰めクビ斬り
などの内容が記載されていた。独自記事が週1回ということは、4月当初に比べ2.6倍。ベスト・オブ・ザ・ウィークに至っては、4倍に激増している。
悪夢のような課徴ノルマの通達から約1カ月後、Y氏は再び会議室に呼び出された。Y氏はこの時までに、独自記事のノルマの本数が、一本足りなかった。上司は「もう一回、パフォーマンス・プランをやれ」といい、紙を差し出した。文面の最後には、こう書いてあった。
「期待されるパフォーマンス・レベルやそのほかの会社規則もしくは手続きに従わない場合、解雇を含むさらなる措置を受ける可能性があることを必ずご理解ください」
それからY氏は、馬車馬のように記事を書いた。約1カ月後、Y氏はこの時点で独自記事のノルマ数をクリアしていた。ただ、ベスト・オブ・ザ・ウィークがなかった。上司たちは、もう一度、プログラムを受けるように言う。そして、前回同様、「解雇を含むさらなる措置」の文言が記された文書にサインさせられた。
そもそもベスト・オブ・ザ・ウィークとは、東京支局の幹部がその週のナンバーワン記事を恣意的に選び、ニューヨーク本社に上げて選ばれるシステムなので、幹部たちがこいつの書いた記事は上げたくないと思えば、どんなに良い記事でも採用されない。
●裁判所も認めるブルームバーグの無理難題
このような恣意的なノルマであるにもかかわらず、1カ月後、会議室に呼ばれたY氏は、直属の上司A氏からこう言われた。
「ベスト・オブ・ザ・ウィークがなかった」
そして、「我々は、もうあなたをこれ以上、チームにおいておくつもりはありません。ほかのチームへの移動も考えましたが、おいておける場所はありませんでした。だから、あとのことは、ここにいる人事の人と話して下さい」と言われた。
そう言った後、幹部4人が整列して会議室から出て行った。正味3分の出来事だった。
その後、人事B氏は慇懃無礼に、「もう仕事をするための社内システムも止めてあります。もうYさんは仕事ができませんので、この場で玄関に行かれてお帰り下さい。社員証もお返しください」と言い放ち、Y氏に自宅待機を命じた。その後Y氏は、10年8月に解雇された。
これに対してY氏は11年3月、ブルームバーグを相手取り、東京地裁に提訴。Y氏の訴えた内容は、「地位確認」と、解雇された10年9月以降の賃金として「毎月67万5千円の支払い」の2点だ。
Y氏の訴えに対し、会社側は、能力不足だったから解雇した、と主張した。具体的には「記者として求められるスピードで記事を配信できない」「配信記事数が少ない」「質の高い独自記事を配信できないという致命的な問題があり、会社側は繰り返し改善を求めてきたが、Y氏は改善する努力すらせず、改善の見込みがなかった」といった主張をした。
その後結審を経て、12年10月5日に判決。東京地裁民事36部の光岡弘志裁判長は、こう述べた。