診療報酬
国民医療費は、基本的には診療単価と患者数のかけ算だ。国民が高齢化し、医療ニーズが増えれば、新たな財源を確保するとともに、診療報酬を引き下げるしかない。来春には診療報酬の改定、19年10月には消費税の10%への増税が予定されている。消費税は、病院にとって損税だ。病院経営は加速度的に悪化する。
この政策はマクロの視点では正しい。ただ、全国一律に施策を実施すれば、地方都市の病院は壊滅的なダメージを受ける。地方都市の中核病院の多くは、民間病院である。外来患者を診ながら、寝たきりや認知症の患者を治療している。補助金で赤字を穴埋めされる国公立病院とは違い、民間病院は赤字が続けば破産するしかない。
小泉政権以降、診療報酬の削減が進んだ。この結果、07年には過去最多の18の病院が倒産した。08年には石西厚生連が運営する津和野共存病院(島根県)、09年には津山同仁会(岡山県)が破綻した。比較的医師数が多く、固定費も安い中国地方でも、病院が破綻したことに医療関係者は驚いた。
その後、09年の民主党への政権交代で診療報酬が引き上げられ、医療機関は一息つくのだが、第2次安倍政権では、診療報酬の大盤振る舞いはなくなった。この結果、16年度には6つの病院が倒産している。
病院は地域で唯一の入院施設だ。すでに地域独占であり、これ以上の入院患者の増加は期待できない。高度医療のニーズは限られているため、あらたに専門医を雇用し、設備投資しても回収は覚束ない。結局、コストを下げるしかない。
その際にコストカットの対象になるのは、意外かもしれないが常勤医である。実は慢性期病院の主たる戦力は看護師である。大きな手術をするわけではないから、専門医は不要だ。地方の病院に常勤医を招く場合、「給料は最低でも2000万円を超える(医師紹介業者)」のに、他の病院で使い物にならなかった不良医師を掴まされることも多い。それなら、無理に常勤医を増やさず、大学病院から優秀な医師にアルバイトに来てもらったほうがいい。
東邦大学の日紫喜光良医師の推計によれば、我が国では病院(20床以上)の約9%が「オーナーによるひとり院長」体制である。多くの院長は高齢だ。病院が存続するには、最低1名の常勤医がいなければならない。もし、院長が倒れれば、病院は頓死する。