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富家孝「危ない医療」

ブラック病院網の衝撃の実態…不必要な手術を繰り返し報酬稼ぎ、2週間ごとに転院

文=富家孝/医師、ジャーナリスト
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ブラック病院網の衝撃の実態…不必要な手術を繰り返し報酬稼ぎ、2週間ごとに転院の画像1「Thinkstock」より

 私は大阪出身だが、地元に帰ってよく聞かされるのが、関西に多い「悪徳病院」の話だ。悪徳というと、悪代官を思い浮かべ、「お主もワルよのー」といったイメージだが、まさにそういう病院が実際にある。今では、こういう病院を「ブラック病院」と呼んでいる。

 ブラック病院の典型例は、たとえば今年3月に生活保護法などに基づく医療機関の指定を取り消された大阪府堺市の医療法人「植田クリニック」だろう。

 このクリニックでは、2011年11月から16年10月までの5年間で、ほかの病院に入院中の生活保護受給者に対する架空の診療報酬を請求したり、診察せずに受給者の自宅にクスリを届けて請求したりする行為を繰り返していた。要するに、マスコミ的にいうと「生活保護受給者を食い物にしていた」のである。

 こういうと語弊があるので、ここで確認しておきたいのは、生活保護受給者には医療費の自己負担がないことだ。つまり、医療費が無料である。ただし、かかった医療費は医療機関が請求することで、全額が国・自治体から支払われる仕組みになっている。とすれば、病院にとってこんないい「顧客」はいない。何しろ、医療費を取りっぱぐれることはないからだ。また、この制度を悪用して、病院からクスリを無料で仕入れて転売する生活保護受給者も存在する。

 こうした結果、生活保護受給者に対する医療費は、生活保護費全体の約5割に達している。

 国の統計資料をみると、生活保護受給者の人数がもっとも多いのは大阪府で、100人当たり3.35人。以下、北海道、高知県、福岡県、京都府と続いている。もっとも少ないのは富山県で同0.32人。大阪の約10分の1だ。

 人数をみると、大阪の次は東京都、神奈川県が来る。東日本は西日本に比べて受給者が少ないが、都市部だけは例外。日本は都市部で貧困化が進んでいる。

 この状況を最大限に利用しているのがブラック病院で、ブラック病院の数は生活保護受給者の数と比例しているといっていい。

ぐるぐる病院

 病院による“生活保護受給者ビジネス”の大掛かりなものに、“ぐるぐる病院”がある。これは、ひと言でいうと、生活保護受給者の入院患者の「たらい回し」である。

 現在の診療報酬制度では、入院期間が長引くと、その分だけ診療報酬が減算される。一般病棟の場合、入院基本料は「7対1」「10対1」「13対1」「15対1」の4つのランクがあり、それぞれ診療報酬の点数が異なる。「7対1」というのは、患者7人に対して看護師を常時1人配置するということ。このシステムが一番診療報酬が高いが、その場合、次のような計算になっている。

・基本点数は1591点=1万5910円
・入院14日までは2041点=2万410円
・同15日~30日が1783点=1万7830円
・同31日~89日が1591点=1万5910円

 つまり、長く入院してもらうほど病院は儲けが減るのだ。そこで、入院患者には病状が回復したらできるだけ早く退院してもらい、新しい患者を受け入れる。これは全国の病院のどこでも行われていることだが、生活保護受給者の認定病院だと、露骨にこれをやる。

 つまり、患者を2週間ごとに転院させ、その間に複数の病院で診療報酬を稼ぐ。次の病院に行けば、患者の入院日数はリセットされ、また1日目から診療報酬が計算される。こうした、ブラック病院のネットワークはいくつか存在し、そのなかで生活保護受給者は病院をぐるぐる回っているというわけである。

必要のない手術をして診療報酬を稼ぐ

 このような生活保護受給者ビジネスは暴力団が絡んでおり、患者をまとめて紹介してリベートを稼ぐ、あるいは病院と生活保護受給者がグルになって山分けする、さらに生活保護受給者支援団体が間に入って手数料を抜いていくなど、いろいろなパターンがある。

 世間が一番衝撃を受けたのは、2009年に摘発された、いわゆる「山本病院事件」と言われる診療報酬不正請求事件だろう。山本病院は奈良県大和郡山市にあった病床数が80床規模の病院で、心臓血管外科や循環器科、脳神経外科、内科などの診療科を掲げていたが、生活保護受給者を連れて来ては必要のない手術をして診療報酬を稼いでいたのである。

 たとえば、肝臓がんでない生活保護受給者を肝臓がんということに仕立て上げ手術を施す。また、必要もないのに心筋梗塞を防ぐという名目で心臓カテーテル手術を施していた。そうして手術を施された生活保護受給者は、なんと140人にも上った。心臓カテーテル手術というのは、血管内の75%以上が詰まっていると治療対象になる。しかし、当時の警察の捜査によると、詰まっていたなどという患者はほとんどおらず、せいぜい50%止まり。ところが、カルテにはみな「90%」「99%」と書かれていたという。

 このようなブラック病院は、現行の生活保護制度の内容が変わらない限り、なくならないだろう。国は制度改正を考えているが、今のところ名案はない。

 ぐるぐる病院は、何も生活保護受給者だけの話ではない。高齢社会が進み、入院患者が増えるにしたがい、どの病院も“ぐるぐる化”していくのは間違いない。
(文=富家孝/医師、ジャーナリスト)

富家孝/医師、ジャーナリスト

富家孝/医師、ジャーナリスト

医療の表と裏を知り尽くし、医者と患者の間をつなぐ通訳の役目の第一人者。わかりやすい言葉で本音を語る日本でも数少ないジャーナリスト。1972年 東京慈恵会医科大学卒業。専門分野は、医療社会学、生命科学、スポーツ医学。マルチな才能を持ち、多方面で活躍している。
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