新型コロナウイルスの影響により、混迷する世界経済、低迷する株式相場。さらに、それらを分析する金融や投資関係の評論家やアナリストたちの声も混乱、混迷を極めて、何を信じていいのかわからない状況だ。そんな情勢を冷静かつ多角的な視点で見つめるのが、東大卒でゴールドマン・サックスでの日本株運用やヘッジファンドの運用経験が豊富な投資家であり、気鋭の辛口金融コラムニストの大空翔氏。そんな同氏が、ご高説を垂れる専門家の化けの皮を剥いでみると……。
高収入の株式アナリストたちの「地盤沈下」
新型コロナウイルスに端を発した株式相場の騒乱が止まらない。
米国市場では、ニューヨーク・ダウが史上最大の下げ上げを繰り返し、その度にメディアがネガティブなニュースを繰り返し発したり、ポジティブなニュースを拾い出して、タイトル付けしたりしている。特に、評論家、ジャーナリストといった類は、自分の存在感をアピールするために完全にポジショントークに走ってしまって、ほぼ感想文に近いコメントが多い。
一方、激動のマーケットの中で、本来は機動的な情報発信をすることが期待されているのに「中長期的な視点が大切」との一点張りで、なかなか自分の意見を曲げない人種がいる。その代表例が、証券会社に属するいわゆる“セルサイド・アナリスト”だ。
彼らを正確に定義づけすると「株式アナリスト」になる。例えば、シンクタンクなどに属して同じような作業をしている産業アナリストとは一線を画す。単純に言ってしまえば、シンクタンクのアナリストは産業や事業を分析する役割を担っているだけなのに対して、株式アナリストは「産業界や事業を分析する+株価を予測する」という2つの側面を持っているべき存在だといえる。そして、この“株価を予測する”という期待値が、彼らの高い報酬に繋がっている。
株式アナリストは、例えば40歳前後でそれなりに評価されていると、年収で4,000~5,000万円程度は稼いでいる。前述したシンクタンクの産業アナリストと比較すると、同じような作業をしているにもかかわらず、2~3倍という圧倒的な収入格差がある。では、その源泉は何であろうか。
この高い報酬を肯定するには、(1)シンクタンク(総合研究所)にはない、圧倒的な企業分析力がある、もしくは(さらに)(2)株価を当てる能力が秀でている、のどちらかであるべきだ。しかし、残念ながら、私が20年以上、運用者として彼らと関わっていて、そのどちらにも該当しないアナリストがほとんどいうのが実態だ。それなのに、アナリストの価値だけは高止まっているのだ。これがまさに、いまだに金融機関の報酬はバブルが続いているといわれる代表例なのである。
なぜこのようなことが可能かというと、証券会社というプラットフォームを使い、彼らが発信している情報が非常に内容の濃いもので、かつ、株価予測が一般の人よりも精度が高いと「信じられている」からに過ぎない。しかしながら、その両要因とも幻想に近いというのが私の見立てで、彼らの考えを専門家の貴重な意見だと高く評価するのは危険である。
まずは、過去のアナリストと比較して、現在のアナリストは質が上がったのか? というと、これが残念ながら完全なる地盤沈下を起こしている。実は、金融業界で最も稼ぐといわれるヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャー(他人の資金を委託されて運用している人)というのは、結果として、かなりの高学歴が多く、東大卒の割合には目を見張るものがある。ヘッジファンドでは、うまく運用益を出せば巨額の報酬が約束されているものの、一定の損失を出してしまえば、その時点でクビとなってしまい、一瞬にして職を失うのだ。このように、東大卒が明日クビになるかもしれないというリスクを負って、死ぬ気で毎日マーケットに対峙しているのが実態だ。
一方、アナリストは実は学歴社会でもない。なぜなら、彼らに求められてきたのは、もちろん正確な企業業績の分析であったが、一方で、株価の当たり外れは二の次で、話を聞いているとワクワクしてきて、その銘柄に投資したくなるような「占い師的な役割」も担っていたからだ。ところが、今では、そんな人の心を惹きつけるような分析や創造性を提示できるアナリストは、ほんの一握りしかない。
アナリストの言い分としては、フェア・ディスクロージャー(情報開示の公平性)の下、独自情報が従前より入手しにくくなったと言うだろう。証券会社内のルール(コンプライアンス)が厳格化もしくはシステム化されて、自分の書きたいレポートが書けないとも言うだろう。中には、投資家が長期のストーリーではなく、短期的に業績が市場予測に対して上に出るか、下に出るかのチェックしかしないから、自分の分析力を披露する余地がないと、投資家に責任転嫁する者までいるだろう。もちろん、すべて言い訳である。
そもそも、彼らと一緒にディナーなどをしながら時間をかけて対面で話しても、まったく斬新なアイデアや切り口はなく、結局は企業の言っていることを頭の中で整理して、それを自分の言葉で言い換えているだけなのだ。そんなことは、直接企業に取材すれば十分で、わざわざ彼らから聞く価値はゼロだ。
企業情報以前の作業バカ!?
であれば、もう1つの役割である、株価を当てることはできるのかいうことになるが、当たるか当たらないかは丁半博打に近い。詳しくは別稿でお話したいと思っているが、アナリストを長年やっていると、株価推奨をしてきた実績(成績)が伴うに連れ、結局、株価を予測することは難しいという結果を受け止めざるを得なくなるのだ。
そこで、株式アナリストの中には、自分は株価を当てるのが苦手だと公言する人があまりにも多いのには閉口する。それが高額報酬の源泉であったにもかかわらずだ。しかも、ヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーと異なり、クビになるリスクもほとんどない。このような半分自暴自棄に近い言葉を聞いていると「だったら、異常に高い報酬をシンクタンクのアナリスト並みに引き下げるべき」だと思ってしまう。そんな僕の意見は得てして市場のコンセンサスより早いので、今後3~5年に金融の高額報酬の是正の本格化が始まるのではないかと見立てている。
では、直近でコロナ感染の問題が大きいので、それを参考にして、株式アナリストの思考を簡単に説明したい。
株式アナリストは自分の解釈に固執する傾向が強いので、ちょっとした変化に対する感応度が恐ろしく低い。なので、コロナウイルス問題が起こった当初も、これは中国の問題でしょうと終わってしまっていた。中国の物流に何が起きる可能性があるのか、それが日本企業で中国に製造拠点を持っている企業に対してどういう影響を及ぼすかという点について真剣には議論しなかった。そして、この問題が全世界的になると、それこそ思考停止状態になってしまう。というのは、彼らの情報入手先である企業サイドでも事態を読みにくいことから発信が止まってしまったことで、彼らが得意な、企業から情報を仕入れてそれを加工するという作業ができなくなってしまったからだ。一言で言うと、作業バカなのである。木を見て森を見ずの典型だ。
これだけ世界中の情報や金融システムが、互いに密接に関わっている時代だ。私であれば、米市場で起きていることをメディアで確認せずに、米の同僚に確認するし、今、どのように米国のマクロを捉えればいいのかという情報を米国ベースで運用している友人から入手する。日本の、しかも企業が発する銘柄固有のものかもしれない情報より、多角的に情報を集め、分析して、最悪、来期はこの程度業績が落ち込みそうだと数字を作り上げる。
例えば、貸し会議室などレンタルオフィスを運営している「TKP」はこの3カ月に株価が70%弱程度下がった。業界トップという評判のある株式アナリストも、このような状況に対して、同社は指をくわえて見守っているだけなく、企業のBCP(企業が業務の継続性を重視し、リスクヘッジを念頭にオフィスを分散させていくという施策)に対応するなどの努力をしていると評価していた。それは、十分理解できる。やらないより、やったほうがよいし、このような企業努力が相対的に他の日本企業と比較して優れているのもわかる。
ただし、日本以外から情報を集めていると、コロナの問題が仮に収束せずに1年継続したら、どうなるのかを織り込む局面であることがわかる。その時、まずはTKPの資金繰りが大丈夫なのか? といった問題が問われるべきなのだ。さすがに、株価が70%下がってから、このような観点からの情報を発信し始めたアナリストもいるが、私はまだ株価が15%しか下落してない局面から、そのようなリスクまで含めて買うのか、買わないのかを判断すべきだと訴えてきた。
大切なのは、狭くモノを見て作業バカになるのではなく、ミクロとマクロの情報、世の中のお金の動きをしっかり追い続けることだ。言うは易く行うは難し。まずはがんばる必要はないので、みなさんにも、これまではしていなかった「これは!」と思った情報収集法や分析眼を持って、投資に臨んでみることをお薦めする。
(文=大空翔/投資家、金融コラムニスト)