絶望と希望の「親の介護」、従業員と企業のトラブル激増…悲劇的事態はこう回避できる
「従業員の多くは企業との和解に応じ、そもそも判決に至らないケースが圧倒的だ。従業員にとっても裁判は大きな負担であり、従業員の請求が認められない判決が下されるリスクもある。解雇無効判決が出て裁判に勝ったとしても、現実的には未払い分の給与は受け取るものの、実際に復職する人はごくまれというのが一般的だ」(鈴木氏)
介護離職してしまうと、再就職は簡単ではない。よしんば再就職先が見つかったとしても年齢的な理由から収入は下がる傾向にある。介護をめぐって企業とトラブルになってしまうと、従業員にとっての不利益も大きい。
企業側にとっても従業員にとっても、介護問題を巡るトラブルを避けるための備えが不可欠といえそうだ。
介護問題の特殊性
ここで押さえておきたいのは、「企業にとって、介護問題をめぐる対策の難しさは何か?」という点だろう。
「介護問題の難しさは、育児休業の問題と違って、まったく先が読めない点にある。いつ誰に何回の介護休業が必要になるかは予測不可能だ。また、介護休業及び介護短時間勤務措置には法律上も期間制限が設けられているものの、介護休業等の期間が終わっても介護の必要性がなくなるわけではないことが多いだろう。そして、介護の必要がなくなる時期も誰にも予測できないことが大半だ。こうした不確定要素が、事前の対策を難しくする」(鈴木氏)
実際、筆者も認知症の両親が「厳しい状態」と親族から聞かされ、「思い残すことのないように」と介護を引き継ぎ、気がつけばもう7年になる。「厳しい状態」だったはずの両親の介護は、恐らく今後も年単位で継続することになるだろう。当時、両親の介護の相談にのってもらっていた親族は、両親よりもはるかに若く元気であったが、その後、介護状態になり、あっという間に亡くなってしまった。まさに人の寿命は神のみぞ知るのだと実感している。
介護の長期化による問題も
従業員にとっても介護休業は人生の大きな決断であるが、企業にとっても組織のキーパーソンが“戦線離脱”をするのは、育児休業の場合と同様の大問題であることに違いはない。
育児休業をとる年代の従業員に比べ、介護休業を必要とする年代の従業員は一般的により重要なポストにいるケースが多いだろう。組織の動きを把握して決断・実行していく部長クラスが介護休業をとる場合、語弊のある言い方かもしれないが、単に穴埋めとして人材をあてがえればいいという問題ではない。しかも、通常の配置転換や育児休業の場合と違って、介護休業は急な申し出となることが多い。後任の育成時間や引き継ぎが十分ではなかったり、後任の適任者がいなかったりすれば、組織が混乱に陥るのは目に見えている。