絶望と希望の「親の介護」、従業員と企業のトラブル激増…悲劇的事態はこう回避できる
実は、Aさんは上昇志向の強い人で、親しい人には「学生時代は、脚光を浴びたこともあまりなかった俺が、同期の誰よりも早く部長になった。どこまで自分の可能性に挑戦できるか、がんばってみたい」と本心を吐露していた。
恐らくだが、社内でも将来を嘱望されていたAさんにとって、親の介護で休みがちになる自分に比べ、同期や部下がバリバリ仕事をこなしていく様子を見ているのが耐えられなかったのではないか。制度を知っているかどうかの話ではなかったのだろう。「なんとプライドが高い」「なんと愚かな」などと、筆者は一笑に付すことができない。そこには、誰も立ち入ることのできない会社員の悲哀を感じるからだ。
こうした悲劇を減らす方法はないだろうか。
「就業規則や制度をつくるだけでなく、従業員にきちんと理解させる取り組みも忘れてはならない。従業員が制度を知らなければ、せっかく作った規則や制度が利用されず、介護離職につながる介護トラブルを防げないからだ。また、規則や制度があることを知っていても、周囲の理解が得られそうにないと従業員が感じていれば、結局制度が利用されずに介護離職等の問題を防げない。そこで、経営陣だけでなく従業員も、専門家から知識を学び、日常的に相談できる枠組みを構築することが望ましい。そうすることで、経営陣も従業員も“心の準備”を持つことができ、必要な時に制度を適切に利用することにつながるだろう」(鈴木氏)
親の介護をする世代は、教育費や住宅ローンの出費も、まだまだかかる年齢でもあるだろう。介護にどっぷりつかりこむと、感情論で介護をとらえがちになり、客観的判断ができなくなる“負のスパイラル”に陥りがちだ。
私が出会った介護離職者は、こぞって「経済的な不安、親族との意見調整、認知症の親の不可解な言動に振り回され、心身ともに疲労困憊し、将来のことを考える余裕もなかった」と明かす。
親の介護は“今後の国民総問題”ともいうべき課題で、恥ずかしいことでも隠すことでも断じてない。経営陣と従業員双方が介護問題について学び、心の準備を持つことで、誰もが上司や専門家に躊躇なく相談でき、介護と仕事の両立が当たり前のこととして受け入れられる会社、ひいては社会にすることができれば、Aさんのような悲劇を防げるかもしれない。
介護はチャンスをもたらすと信じて
介護の大変さは、並大抵ではない。経験した人でないと理解できないことがたくさんある。