もう少し身近な例では、携帯電話会社もそうだ。「格安SIMが安い」という情報は知っているが、では実際に乗り換えるかといえば、「なんとなく、現状のままでもいいか」となる(小遣いを大きく削られたら話は別だが)。つまり、現状維持は楽なのだ。
現状を変えることでトクする可能性が損する可能性を上回っていても、変化よりも現状維持を選ぼうとする傾向のことを、行動経済学では「現状維持バイアス」という。「生活が苦しい、じゃあ固定費を削ろう」という時にやっかいなのが、この現状維持バイアスだ。
保険にしろ、携帯電話にしろ、契約し直すという作業が、とにかくうっとうしい。それが正解だとわかっていても、腰が重くなる。さらに、どちらも契約内容や約款が複雑でわかりにくい。ますます、「現状維持でいいや」となりがちだ。まずは、この現状維持という心理的ハードルを越えないと、生活は楽にならないのだ。
無理な積み立て貯蓄が家計圧迫のケースも
さらに、支出とはいえない固定費もある。毎月の積み立て貯蓄がそれだ。この積み立て額が家計を圧迫しているケースは、けっこう多い。貯蓄に励む気持ちが強いあまりに積み立て額の設定が多すぎ、生活費が足りなくなる。
すると、給料日前はカード払いでしのぐことになる。そのカード払いは単に支払いの先送りなので、また現金が足りなくなり、カードを使う……という危険なサイクルに陥る。結局、ボーナスでようやく生活費を穴埋めするのだ。
本来は、身の丈に合わない積み立て額を見直して減額すべきなのだが、それは極力したくない。ここにも、現状維持バイアスが働く。もっとややこしいのは、現状を変えるとトクではなく損するケースだ。
ゼロからマイナス金利時代に向かう中、「預金よりも増えますよ」とのセールストークで貯蓄型保険に加入した人がいる。特に「老後資金向けに」と勧められて「低解約返戻型終身保険」に入った場合は注意。
この保険は、保険料の払込期間中(低解約払戻期間という)は解約せずに払い続け、期間終了後に解約すると、払った元本を超える金額が戻ってくるという触れ込みだ。しかし、20~30年間、毎月せっせと払い続ける必要がある。もし、この期間中に解約すれば、戻るお金は払込金額よりずっと低くなり、元本割れしてしまうのだ。だから、やめられない。生活が苦しくても「損する」と思えば、とてもできない。
家計診断の数字を見て、「全体的に保険料が高いな」と感じる家は、この保険に入っているケースが多い。もっといえば、その30年間払い続ける保険料が重くのしかかっているご家庭もある。
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