“優良申告法人”には税務調査が甘くなる?社長の愛人に給与支給が発覚→重加算税を賦課
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「これは、私がマルサだったときに、経団連の茂平というおじいさんから聞いたお話です」です。
「優良申告法人」という制度があります。一定の基準を満たして優良申告法人に選ばれれば、定期的に税務署の職員がやってくるけれど、茶飲み話をするだけで帳簿は見られないそうです(「個別指導」といいます)。これは、優良申告法人の代表取締役社長から聞いた話で、ぼくが職員だったころは制度の概要どころか、その存在すら知りませんでした。
調べたところ、選ばれるためには、法人の所得が一定金額以上であること(話を聞いた社長は「毎年1000万円以上」と言っていましたが、地域によって異なるかもしれません)や、過去に不正がないこと、滞納がないこと、などの条件を満たす必要があります。条件は厳しいですが、法人として大変名誉な制度であり、地域に根ざした社長たちの敬意の対象となりうると思います。
この社長は、あるグループの会長でもあったので、一般的に言われている基準に加えて、そのグループの要職に就いていることも重要なのかもしれません。
ただ、以前は茶飲み話に終始していた優良申告法人への調査も、ほかの法人と同様に、しっかりと行われるようになったという話も聞きます。
また、どの法人に調査に入るかは調査担当者や統括官が決めますが、優良申告法人は、統括官のみが選定できるようになっているそうです。
優良申告法人への税務調査
中国地方のある優良申告法人に、税務調査をする旨の連絡がありました。上場企業の出資を受けている設立30年のその法人は、連続した3日間を押さえられ、そのほとんどを社長が対応しました。
丁寧な挨拶に始まり、事業の概況を話してから帳簿調査に移りました。2名でやってきた調査担当者は、始めから聞きたいことが決まっていたようで、売上や経費を見る前に、従業員名簿を確認し、履歴書の提示を求めてきました。
賃金台帳も確認していました。1名だけ外国人がいたので、どんな人間なのか、いつから働いているのか、業務内容は何かなど、細かく聞かれました。
社長は正直、「しまった」と思いました。以前に調査があったときに、勤務実態のない従業員について確認され、指導を受けていたのです。その際、修正申告は求めずに、今後は是正するようにという内容でした。
それなのに、同じ外国人に対し、いまだに給与を支払い続け、勤務もさせていませんでした。調査担当者は、もちろん、社長との関係を聞いてきました。
なんというか、表現が難しいのですが、愛人のようなものをイメージしていただくとよいと思います。社長は結婚していないので、不倫にはなりません。ただ、「恋人」というような年齢ではなく、一緒に住んでいるわけではないので内縁の妻とも違います。それに、ほかにも会っている女性が複数います。さらに、この外国籍の女性との間に子供がいます。このような複雑な状況を適格に言い表せる言葉を、社長は持ち合わせていませんでした。
調査担当者と顧問税理士の前で、以上の事実を正直に話しました。
この女性のことを従業員には話していなかったので、確認のために話を聞きにいかれると困るからです。社長としての権威を失うくらいなら、修正申告をして、納税するほうがいいと判断したのです。その判断は、間違っていなかったと思います。お金は、また働いて稼げばいいからです。先の短い人生で、色狂いのように思われる方が無念です。
かくして名誉は守られましたが、優良申告法人ではなくなってしまいました。これからは、税理士の先生と頻繁に連絡を取り、適切な処理をしていきたいと語っていました。
社長の私的な関係者への給与は、「従業員給与」ではなく「役員給与」とされ、全額損金不算入となりました。さらに、事実の仮装があったとして重加算税を賦課され、延滞税も発生しました。優良申告法人であったとしても、社長の認識に誤りがあれば、不正の意図はなくとも、そのような処理をしてしまうことがあるようです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)