【住宅の火災保険の落とし穴】3割は水災補償なし…洪水・内水氾濫・土砂災害は対象外
大雨・台風シーズンには必ずといってよいほど話題になるのが、洪水である。洪水は火災保険の水災補償で補償されるというのが基本だが、水災補償がない商品やプランもある。内閣府の試算によると、持家世帯の66%が建物の水災補償がある保険または共済に加入しているという【註1】。逆にいえば、34%の世帯は水災補償を確保していないことになる。
水災補償のある保険・共済に加入していない世帯のなかには、物理的に洪水リスクが低い世帯もあるだろう。構造や立地にもよるが、一般的にはマンションの2階以上はリスクが低い。一戸建ても高台など洪水が考えにくいエリアもある。加入していない34%の世帯がこうした世帯であればよいのだが、実際にはリスクの低い世帯が加入し、リスクの高い世帯が加入していないというミスマッチが、少なからずあると考えざるを得ない。
私はファイナンシャルプランナーとして、累計2000件超の相談を受けている。保険見直しの相談では、火災保険の補償内容を相談者がどの程度把握しているか確認することも多いのだが、補償内容をしっかり把握できている人は生命保険以上に少ない印象だ。
火災保険の水災補償の有無を確認
住宅所有者向けの火災保険は、以前は業界共通商品の「住宅火災保険」と「住宅総合保険」だけであった。規制緩和・自由化により、1999年7月頃からそれらとは別に、「破損・汚損」など補償を充実させた各損害保険会社の独自商品が主力となってきた経緯がある。まずは、あなたが加入している火災保険の保険証券で、保険種類を確認してほしい。
保険種類が「住宅火災保険」であれば、補償範囲は「火災・落雷・破裂・爆発」と「風災・ひょう災・雪災」だけであり、水災は補償の対象外である。「住宅総合保険」であれば水災は補償されるが、保険金支払いは最大で損害額の70%に圧縮されるので、注意が必要だ。
それ以外の保険種類、たとえば「個人用火災総合保険」や「家庭用火災総合保険」などであれば、各社の独自商品ということになる。独自商品は、水災補償があるプランとないプランを選べるものが多く、保険証券や加入時に受け取った設計書などで補償内容を確認する必要がある。水災補償があったとしても、保険金の支払いが最大で損害額の70%に圧縮される特約を選択できる保険会社もあるので注意しよう。また、水災補償の保険金支払いは、建物の居住部分が床上浸水することが標準的な要件であることは知っておきたい。
川が近くになくても内水には注意が必要
「家の近くに川はないから洪水の被害には遭わない」と考える人が、水災補償のない火災保険に加入している場合にも落とし穴はある。河川の氾濫である「洪水」に対し、市街地にある水、たとえば下水道の雨水管などが溢れる「内水氾濫」である。最近はゲリラ豪雨のような局地的豪雨が頻発し、内水氾濫への備えの必要性は増しているといえよう。火災保険の水災補償は、もちろん内水氾濫による損害も対象である。
洪水・内水氾濫・土砂災害リスクをハザードマップで確認
「家は高台にあるし、内水氾濫の可能性もほとんどないだろう」と考える人にも、まだ落とし穴はある。土砂災害も火災保険の水災補償の対象なのだ。たとえば近くに崖地があり、大雨の影響で土砂崩れが発生し自宅も被害を受けた場合、水災補償がなければ補償の対象にならない。
つまり、水災補償のある火災保険にすべきかどうかは、自宅の洪水リスクに加え、内水氾濫、土砂災害のリスクも考慮して判断する必要がある。これらのリスクを知るには、「洪水ハザードマップ」「内水ハザードマップ」「土砂災害ハザードマップ」を利用しよう。「国土交通省ハザードマップポータルサイト」では、市区町村名や施設名から検索して、これらのハザードマップを見ることができる。内水氾濫については、たとえば発行する災害概要に浸水箇所の町名のみ公開するなど、ハザードマップを作成していない市区町村もある。
本格的な大雨・台風シーズンの前に、加入している火災保険の水災補償の有無と保険金支払いの内容を確認し、自宅の「洪水」「内水氾濫」「土砂災害」のリスクを把握した上で、リスクに応じた火災保険の見直しをぜひ行ってほしい。
(文=平野雅章/横浜FP事務所代表、CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
【註1】
出所:内閣府ウェブサイト「防災情報のページ」2017年8月6日閲覧
損害保険料率算出機構資料(2015年度末における全保険会社の建物(住宅)を対象とした火災保険保有契約を集計)及び日本共済協会資料(2015年度末におけるJA共済連、JF共水連、全労済、全国生協連の建物(住宅)を対象とした共済保有契約を集計。住宅のみのデータ抽出が困難なものを除く)をもとに、内閣府試算。