離婚の理由は“母乳”?驚愕した離婚裁判の一部始終…不倫夫の“想像を絶する”身勝手な主張
平成生まれは知らないだろうが、昭和の時代に女性が赤ちゃんにあげる母乳について「赤ちゃんのもので、パパのものではない」といった内容の歌謡曲が大ヒットとなった。小学生は無邪気だから、外で大声を張り上げて競い合う光景があちこちで見られるほどのブームとなった。
それが半世紀を経た令和の時代に、神聖な法廷で論じられることになるとは――。
ある日、筆者は出向いた場所の近くにあった地方裁判所に、軽い気持ちで入った。その日に開廷される裁判を調べるには、入り口付近にある機械を操作して法廷の場所を確認する。開廷時間、訴えの案件名、原告などが横一列に表記されている。閲覧しているうちに、離婚に関する裁判が目に留まった。
離婚で夫婦間の話し合いがうまくいかない場合は、弁護士に依頼して協議離婚をしたり、家庭裁判所の調停で解決を求めることが多い。調停が不和に終わった場合、裁判になるのが一般的だが、いきなり裁判を起こすこともある。夫婦間で裁判になる場合は、すでに感情の亀裂は決定的だと考えるのが普通だ。
筆者が傍聴した法廷内はこぢんまりとして、裁判長ひとりと1段下に書記官がひとりいた。原告は妻、訴えられているのは夫とその愛人で、3人は同じ会社に勤務していた。驚いたことに夫には妻と結婚する前から婚外子がひとりいた。結婚する直前に夫は妻にそのことを告白。衝撃を受けた妻は家族に相談した。当たり前だが、妻の両親は激怒し、娘に別れるように迫った。しかし、娘の説得に根負けし、結婚を認めることになった。
夫はそれまで認知もせず、養育費も払っていなかったため、両親は弁護士に相談を持ちかけ、結局、婚外子を認知することになり、社会人になるまで養育費を支払うことになったものの、妻の猛反対で夫からの面会の申し出は認められないことにしたという。
大波乱で幕を開けた結婚だったが、夫婦は共に有名企業の支店勤務だったため、妻は結婚を機に退社した。夫は妻に優しく、妻は永遠の愛を疑わない日々が1年ほど続いた。両親もそんな二人をみて、安心をするようになった。
夫の不倫で体調を崩した妻
結婚直後、夫の職場に愛人が転職してきた。世間の妻が夫の浮気を疑うきっかけは、「帰りが遅くなった」「何か隠し事をしている」などと、夫の変化に気づくことだが、この夫は違った。夫は妻に愛人と関係ができたことを告白した。「黙っていることが心苦しい」というのが理由だ。愛人も愛人で、職場の他の男性たちとの関係を彼に打ち明け、夫はそれを妻に話した。
浮気を知った妻は激怒したり、悲しみにくれたりすることが普通だが、この妻は嘆き悲しみながらも「もっと妻として努力する。愛人とは別れてほしい」と夫に言い、家事に育児にこれまで以上に打ち込んだ。しかし、夫は愛人との関係をやめなかった。
やがて、妻は食事もとれなくなるほど体調が悪化した。両親は娘の体調と子供の育児を心配して、実家に呼び寄せた。
あろうことか夫は妻との共同名義の家に、愛人を呼び寄せた。そのことを知った妻は、うつ病を発症するほどになった。悲しみに暮れる娘を見かねた両親が、弁護士に相談して、慰謝料請求の裁判を起こしたのだった。
裁判では、夫が初めて愛人と肉体関係を持った日や、愛人との毎月の回数まで暴かれていく。証言台の妻は、立つのもやっとという状態だったが、親族の目の前で別居までの間に夫との肉体関係の回数も聞かれる。夫はそんな妻に「お前は愛人と違って肉体関係を持っても気持ち良くない」と吐いて捨てるように言い放ったという。妻は消え入りそうな声で「子供も生まれたばかりで、夫は絶対に戻ってくると信じていた」と泣き崩れた。妻の小刻みに震える後ろ姿は見ていられないほどだった。
妻の必死の訴えに、一度は愛人との別れを決めた夫だったが、愛人に別れを告げに行ったその日のうちに再び関係を結び、そこからズルズルと関係を続けた。夫は、妻が深く傷ついていることに気がつかなかったと言い、愛人も「悪いとは思ったが、彼が『大丈夫』と言ったので、いいんだと思った」と証言した。
夫は給料から婚外子と妻に生活費を振り込み、住宅ローンの支払いもあり、手元には小遣い程度しか残らないと訴え、愛人は社内で「誰とでも寝る女」と評判になりだしたために退職し、今は新しい企業に勤め、彼を養っていることを主張した。
「僕に断りもなかったことが、それが今でも許せない」
妻は、ものすごく真面目で恋愛経験も少なかったのではないか。よく離婚を切り出されると、「自分に悪いところが」「自分が変われば」と思う人は少なくない。妻はそんな性格なことに加え、子供には父親が必要だと考え、耐えたのだろう。そんな妻の心の傷にも思いを馳せることもなく、さらに愛人まで手に入れたのだから、夫は「俺ってモテ男かも」と大いなる勘違いをしたのかもしれない。
浮気に走った理由も自己中心だ。妻が新婚当時、同僚たちと会社帰りに語学レッスンに通っていたことをあげつらった。夫は妻が浮気をしていると決めつけていたのだ。
そして、夫が法廷で語った離婚理由が驚愕するものだった。
「出産後の母体を気遣って、『ミルクと併用していい』と言ったのに、妻は母乳にこだわった。体調を崩した妻に医師が母乳との併用を勧めて、妻は併用をスタートさせた。僕に断りもなかったことが、それが今でも許せない」
今でもこんなことを言ってのける男がいるのだ。完全なモラハラではないか。夫は、妻が赤ちゃんに母乳かミルクのどちらを飲ませるのかを決める権利は自分にあると主張しているのだ。しかも、夫は育児をほとんどせず、別居後は子供に会いたいとの申し出もない。
判決はもう少し先になるようだが、考えようによっては“歴史的な判決”となるかもしれない。
ちなみに、愛人が関係を持った男たちのことを法廷で実名告白したことで、男たちの実名が裁判記録に残されることとなった。恐らく本人たちは、まったくそのことを知らないだろう。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)
※プライバシー保護のため、登場人物の設定を一部変更しています。