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山崎俊輔「発想の逆転でお金に強くなる『お金のトリセツ』」

今年、多くの日本人が初めて経験するかもしれない「モノの値上がり」の怖さ&対処法

文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表
今年、多くの日本人が初めて経験するかもしれない「モノの値上がり」の怖さ&対処法の画像1
「gettyimages」より

モノの値段が上がり始めた

 昨年11月はガソリン、12月は牛丼、今年1月はパン(小麦粉)、2月は油、3月はマヨネーズ、そして6月からはカップ麺――。何を並べているかは、おわかりでしょうか。

 そう、すでに値上げされたか、これから値上げ予定の品目リストです。ネット上では「小麦粉×油×マヨネーズ」ということで「お好み焼き屋、値上げ確定!」との嘆きの声が早くも広がっています。お好み焼きが値上げされるかはまだわかりませんが、あなたが車に乗る生活をしていれば、ガソリン代の値上がりがすでに生活を直撃しているはずです。週に何度か牛丼を食べて昼飯代を抑えるのは節約の基本(しかも美味いし)でしたが、一食あたり50円も値上がりすると、節約効果も小さくなってしまいました。

 最近は、人件費の上昇、物流コストの上昇、原材料費の高騰など、値上げを検討せざるを得ない要素が重なっています。そうした流れがついに「値上げ」として私たちの財布を直撃し始めています。

 モノの値段が上がる印象があまりなかった人たちにとっては、違和感があることかもしれません。それもそのはず、日本では20年以上もほとんど値上がりがない時代が続いてきているからです。これからの「物価が上がる」時代をどう切り抜けていくべきか、ポイントをまとめてみます。

日本は20年以上、物価が上がらない社会だった

 日本では物価の上昇がこの数十年ストップしていました。物価を示すデータである消費者物価指数を、2020年を100として過去にたどっていくと、1950年が11.9です。つまり70年前の物価は9分の1、今の1000円の買い物は当時119円であったということになります。

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『日本版FIRE超入門』(山崎俊輔/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 戦後の経済成長とともに物価は上昇しました。1960年が17.9、1970年が31.3とざっくり10年ごとに50%くらいずつ上昇し、1980年が73.8と急上昇しました。10年で倍になったわけです。1970年から80年にかけて、500円のモノが1000円以上に値上がりしたと考えればすごい値上げということになります。この頃は教科書にあるオイルショックがあった時期に重なります。

 さて、次の10年で1990年が89.7まで上昇したところで、物価上昇は横ばいに転じます。2000年が96.4、2010年が93.5とむしろダウン、2020年が少し上がって100となっています。1990年から2020年の間は30年かけて約10%しか値上がりしていないわけです。

 物価の上昇をインフレといいますが、この期間は「低インフレ」もしくは「デフレ」の基調にありました。デフレというのは物価がむしろ下がることです。確かに、食事の値段はほとんど変わらないままでした。安いランチが500円、ちょっといいランチが1000円であるという感覚は20年前から変わりません。服などはユニクロのがんばりのおかげで、クオリティが上がっても値段はむしろ安くなったりしました。

 あまりにも長くモノの値段が上がらなかったことで、私たちは値上がりが当たり前の時代をすっかり忘れてしまいました。若い世代は「そもそも知らない」ですし、アラフィフ世代であっても「子どもの頃にあったかもしれないが覚えていない」です。つまり、大人であっても半分くらいの人は物価が上がる感覚を持っていないわけです。

経済が成長していくと基本的にインフレを伴い、賃金もアップする

 経済学の教科書をシンプルに解説すると、経済は中長期的には成長していきます。20年前にはGoogleがサービスを始めたばかりであり、iPhoneがまだ存在しなかったと振り返れば、世界にイノベーションが起きることに異論はないと思います。

 このとき、物価は徐々に上昇し、賃金も徐々に上昇していくのが経済の教科書的な説明です。モノの値段が3%上がって、賃金が3~4%くらい上がる、というようなトレンドが続けば、値上がりがあっても怖いことはありません。給料が増えた感じもするし(実際は物価上昇を上回る部分が本当に増えた分ですが)、気分もアガります。

 実際、世界的にはモノの値段が上がるのはごくごく普通のことです。アメリカなど諸外国では毎年数%の物価上昇が続いています。ときどき、ネットで「アメリカならラーメンだって2000円する、日本は安すぎる」といいますが、アメリカは物価も上がり、給料も上がったからそうなっているわけです。

 ランチ2000円というニュースがある一方、アメリカのコーヒーショップは時給1900円というニュースもあります。お給料はそのままで物価だけ上がるわけではない、ということです。

 つまり、「1時間働いて、お昼代一回分」という感覚があるとすれば、日本なら1000円稼いで1000円でお昼、アメリカは2000円稼いで2000円でお昼、というように、値段も時給も値上げされていると考えてみるといいでしょう。それが物価上昇時代の基本です。

 しかし、あまりにも長く物価も時給も上がらなかった日本では、これから物価が上がったらどうするのか、若い世代は今からしっかり考えておく必要があります。

物価が上がった分、あるいはそれ以上給料が上がるかしっかり見極める

 若い世代にとって注意したいのは「物価上昇<賃金上昇」を意識してキャリアをデザインしていくことです。経済の基本としては物価の上昇より賃金上昇率が上回るとされますが、教科書通りに現実になるとは限りません。「給料が月3000円上がった!」と4月に喜んでいても、物価がそれ以上上がっていれば意味がないわけです。

 会社全体で物価相当くらいの給与アップをするのがベースアップですが、個人の能力が高まって昇格昇給すればこれ以上の給与アップになります。若い人ほど本気で仕事をして、こうした昇給を勝ち取りたいところです。業績が悪い会社に何年もいて、給与据え置きになるくらいなら、景気がいい業界の会社に転職して数十万円あるいはそれ以上の昇給を得るのも選択肢です。

 いずれにせよ、物価がどれくらい上がったかどうかをニュースで見ながら、同じくらい、あるいはそれ以上賃金もアップしたか、自覚的にチェックしていくことが大切です。

買い物のときには値上げをしっかりチェックしよう

 そして、日々の買い物では値上げをよくチェックしていきます。「単純値上げ」「実質値上げ」「新パッケージ値上げ」など値上げの方法はいろいろありますので、目を光らせていきます。「単純値上げ」は目立ちますので、比較的わかりやすいです。例えばガソリン代のように隠しようがないパターンです。しかし、食パンや日用品が10円くらいの値上げをされると、すぐには気がつきません。価格に敏感になっておく必要があります。

「実質値上げ」というのは、価格は変わっていないものの、内容量を減らすやり方です。1リットルだと思っていたら、実は900ミリリットルの牛乳パックだった、のようなものが典型例です。食品や日用品など値上げが目立ちやすいもので、しばしば行われる実質的な値上げ方法です。例えば、今まで198円だったものが218円になると値上がりが目立つので、中身を10%くらい減らして198円は変えないわけです。これまた気がつきにくいので、ときどきチェックしてみたいところです。

「新パッケージ値上げ」は実質値上げの別パターンですが、「新開発素材で汚れ落ちがアップ!」というように付加価値をアピールして新商品を発売します。そのとき、従前の商品より高い値段にしたり内容量を減らして発売します。CMが言うほどの付加価値が実感できない場合、ただの値上げということになります。

若い人は、家計簿で出費の「見える化」をスマホで実行

 さて、食パンの値段やシャンプー詰め替えの値段をいちいち気にしていられない(というか覚えていられない)という人は多いと思います。私もそうです。だとしたら、自分の記憶だけに頼らず、外部記憶を活用して値上げを記録するようにしてみましょう。つまり家計簿です。

 スマホアプリで「家計簿」と検索するとZaimマネーフォワードME、マネーツリーなどが上位にヒットしますが、こうしたアプリは銀行の入出金、クレカの利用明細などを自動ダウンロードして家計簿を勝手に作成してくれる機能があります(もちろん、それぞれのIDを登録する)。これを使えば半自動的に家計簿が作成されます。

 レシートがあれば、カメラで撮影しておけば、これまた自動認識されます。1000万画素のカメラはそれだけの精度を持って読み取りをしてくれるのです。ランチや自撮り写真をインスタにあげるだけが、スマホカメラの活用ではありません。できるだけ楽をしながら家計簿をつけていくと、「食費がじりじり上がっている」とか「日用品、やっぱ値上がりしているな」というような時系列データがグラフとなって見えるようになります。まさに物価上昇が「見える化」していくわけです。

 給料が物価上昇分くらいアップするのは来年以降のことなので(基本的に事後的に追っかけて見直される)、物価上昇時期の最初は家計をしっかりチェックするようにしてください。そして可能であれば、値上がり分くらいの節約も意識し、家計が赤字にならないよう注意していきましょう。間違っても値上がり分のしわ寄せをキャッシングやカードローンでやりくりしないこと。これは自分の未来に金利を上乗せした苦労を先送りするだけで、解決策とはなりません。もちろん利息は物価上昇率以上の高利であなたを苦しめます。

今年は生まれて初めての物価上昇期となるか

 さて、2022年が本当に物価が上昇する年となるかは、まだわかりません。過去にも何度か「今年こそは物価上昇が始まるか」と言われ続けてきましたが、部分的なものにとどまっていました。

 しかし、もしも今年値上がりが各方面で起こったとすれば、「人生初めての物価上昇経験」をすることになります。そのとき、知らずにダメージが直撃するよりは、ちょっとだけでも身構えておいて、ダメージを回避できるほうがいいはずです。

 今のうちにぜひ、値上がりの時代を切り抜けるテクニックを身につけてみてください。

(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)

山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表

山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表

1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒業。企業年金研究所、FP総研を経て独立。個人の資産運用や老後資産形成のアドバイスが得意分野。日経新聞電子版やYahoo!ニュースなど多数連載を持つ。月間PVは200万以上。
フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
financialwisdom

Twitter:@yam_syun

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